温室効果ガスを2030年に46%削減する方法の考察

まとめ
◇温室効果ガスの排出量の多い、石炭の利用の中止時期を設定(2030年?)
◇電力の再エネ化を加速すると同時に、輸送部門や家庭部門などは効率の良い電化へシフト
◇石油等、天然ガス等は年次の使用量の上限を決める(2013年:100、2030年:50、2050年:0を結ぶ線)
◇電力の再エネ化、電化シフトおよび代替エネルギーへの転換を加速するために政策で支援

はじめに

菅首相は、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という目標を示した(2020年10月26日に招集された臨時国会 所信表明演説中)。さらに、2030年の温室効果ガスを2013年度比で46%の削減と50%の高みに向けての挑戦を続けていくと強調しています(2021年4月22日)。

では、どの様にして2030年の目標:50%減および2050年:100%減を具体的に達成するのでしょうか? まだ、政府から具体的な道筋が示されていません。かなりドラスティックな対応をしないとこれらの目標は達成できないことは容易に想像できます。今回のテーマは、この目標を達成する方法について考察します。

温室効果ガス(GHG)の排出状況

日本の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)の排出状況はどの様になっているのでしょうか? 日本の温室効果ガスの大半はエネルギー起源です。温室効果ガス(GHG)は、全体としては、徐々にですが減少して来ています(図1)。2019年の総排出量は、1,212 Mt-CO2(二酸化炭素に換算して百万トン)基準年の2013年の86%となっています(表1)。これは、電力需要の増加がない中で、再生可能エネルギー(再エネ)の導入が進み、最大のウエートを占めるエネルギー起源の排出量が減少したためです。一方、非エネルギー起源と一酸化二窒素の項目はほとんど変化していません。代替フロン等4ガスは逆に増加しています。森林、土壌、海藻などを活用し、二酸化炭素CO2を吸収することで大気中の二酸化炭素CO2を減少させることもできます。温室効果ガス(GHG)の排出をゼロにするためには、森林などによる二酸化炭素CO2の吸収手段が絶対に必要です

注意:二酸化炭素回収して貯留する方法(CCS)は実証実験の段階です。最近では、さらに、空気中から二酸化酸素CO2を取り出すDAC(Direct Air Capture)と言う別の方法も研究されています。

 

図1 温室効果ガス(GHG)の排出量の推移
環境省データより作成 参考1)他

項目温室効果ガス
 2013年
(Mt-CO2)
温室効果ガス
 2019年
(Mt-CO2)
備考
エネルギー起源1,2351,029化石燃料の燃焼に伴うCO2排出
非エネルギー起源 76.5  79.2工業プロセスおよび製品の使用による
メタン(CH4) 36.1  28.4農業分野など
一酸化二窒素(N2O) 21.5  19.8燃料の燃焼・漏出における排出
代替フロン等4ガス 38.8  55.4冷凍機、ヒートポンプなどの冷媒の排出
吸収分 -37 -45.9森林などの炭素の吸収・固定・貯蔵
表1 2013年と2019年度の温室効果ガスの排出量比較
環境省データより作成 参考1)他

エネルギー起源の温室効果ガス

温室効果ガス(GHG)排出量が最大のエネルギー起源の中身を確認します。2018年度のデータですが、エネルギー起源の排出量は1,059 Mt-CO2でした。この内、全体の約43%の460 Mt-CO2は、発電するために使ったエネルギーでした。エネルギー起源とは、化石燃料である、石炭類、石油類およびLNG等ガスを言います。それぞれが総排出量に占める割合は、石炭類:41%、石油類:37%およびガス:22%(図2)となっています。

図2 エネルギー起源の温室効果ガス量 参考2)

次にこれらの化石燃料は、発電を除くと何に使われているのでしょうか? データが古いですが、石炭等は、燃焼させて化学反応をさせるために、鉄鋼33%、窯業・土石6%、化学4%などに使われています(表2)。石炭等は、熱量当たりの二酸化炭素の排出量(t-CO2/TJ)が他の化石燃料に比べて大きく、多量の二酸化炭素を排出します。そのため、石炭等は使わない方向に舵が切られる方向です。温室効果ガスを排出しない代替燃料としては、木材等のバイオチップやCO2排出のないグリーン水素アンモニアなどが挙げられます。

石油製品の用途は、自動車、航空機および船舶用などの移動体の燃料用が主要です。ナフサは化学工業の原料となります。家庭用暖房の灯油も石油製品です。石油製品の熱量当たりの二酸化炭素の排出量は石炭等に続く2番目の大きさとなっています。石油製品に代わる温室効果ガスを排出しない代替燃料としては、バイオ燃料、水素合成燃料、グリーン水素などが候補となります。乗用車等はガソリンを使わない電気自動車(EV)へ置き換えが進むと考えられています。暖房用の灯油は効率の良いヒートポンプへ置き換え可能です。

天然ガス等は、化石燃料の中では二酸化炭素CO2の排出量が一番少ない。天然ガスは都市ガスやプロパンガスとして使われています。水素は、現在のガス中にも含まれていて、英国などでは、過去に、ガス中の水素の濃度が60%程度まで使われていた実績があります。したがって、現行のガスパイプラインでグリーン水素や水素合成ガスを供給することは、価格次第ですが、可能性はあると思われます。

二酸化炭素を排出しないクリーン・エネルギーへのシフトの最大の課題はコストです電力の再生エネルギー化は進展しています。市場が拡大し、技術の習熟も進み、化石燃料と競争できるレベルとなって来ています。また、電気を使えば、総合的なエネルギー効率も良くなりますので電気でやれることには電気を使うべきです。乗用車、冷暖房、給湯、調理などの用途は電化の方向に向いています。

現状、代替燃料は未だコスト競争力がありませんし、将来も化石燃料より高くなると推定されています。したがって、電気で出来ない、出来にくい用途に限ってグリーン水素、バイオ燃料などの代替品を使うのがもっとも合理的となります温室効果ガスの排出を「ゼロ」とする2050年を想定すると、二酸化炭素CO2の多い石炭等は市場が無くなる可能性が大きく、石油やガスも市場が急減する可能性があります

種類用途排出原単位
(t-CO2/TJ)
代替手段備考(トレンド)
石炭等発電44%、鉄鋼用33%窯業・土石6%化学4%パルプ・紙3%、その他10% 参考3)2011年データ 89.1バイオチップ
グリーン水素・アンモニア
石炭を使用を止める方向へ
・発電は再エネへ
・鉄鋼や化学は水素利用
・製鉄に電気炉の活用拡大
石油製品揮発油30%、ナフサ26%、ジェット燃料3%、
灯油9%、軽油(ジーゼル用)20%、重油(船舶やボイラーの燃料)12% 参考4)
68.6-70.6バイオ燃料
水素合成燃料
グリーン水素・アンモニア
・自動車と灯油用途はEV化・電化で対応
大型車、船舶、航空機が課題
天然ガス等発電他63%、都市ガス37% 参考5)51.2-60.0グリーン水素
水素合成ガス
・発電は再エネへ転換と火力は水素利用
・都市ガスは電化で対応
表2 2018年度のエネルギー起源CO2排出量

温室効果ガスの半減、ゼロ化の道筋

日本の電力状況を見てみます。電源構成と温室効果ガス(GHG)排出量が組みとなっている2018年度のデータで見てみます(表3)。日本では火力発電の依存(全体の76.9%)が大きいことが分かります。化石燃料毎に、発電熱量(TJ)当たりの二酸化炭素CO2排出量も表示しています。排出量は石炭火力、石油等、LNGの順に小さくなっています。このことから、電力の再エネ化の進展に伴い、休止すべき順番は石炭、石油等、最後にLNGとするのが合理的です。 3.11東日本大震災以降、原子力発電の利用はあまり拡大していません。18年度では約6%となっています。全体の16%は再生可能エネルギーである水力と新エネとなっています。二酸化炭素CO2の排出しない電力は原子力と再エネの合計で22%となっています。一方、日本の電力発電電力量はほぼ安定しています/変動が少ない(図3)。

注意:環境エネルギー政策研究所の推計 7)では、2020年の再生可能エネルギー:20.8%、原子力:4.3%となっています。

日本には全電力を再エネで賄うだけの再エネ資源は十分あります更に、水素やバイオ燃料などの他の代替エネルギーとは異なり、再エネは価格競争力があります。しかし、9年後の2030年までに再エネ率を現状の2倍の50%とするのは並大抵の手段では不可能と推定されます。部分的には既存の原発に頼るとしても、2050年の温室効果ガス(GHG)「ゼロ」は見通せません。原発の新設、放射性廃棄物の処理、国民の合意など、どれをとっても、ほとんど不可能に見えます。したがって、再生可能エネルギーを加速させる政策が必須です。特に力を入れるべきは洋上風力と地熱と考えています。太陽光発電は設置までのリードタイムが短い特長がありますが、再エネのバランスの中で導入量を決めるのが良いと考えています。

地道に電力の再エネ化を進めることで再エネ比率を高めると同時に、電力で出来ることは効率の良い電気に任せる」と言う方針で、電化を進めることが肝心と考えています。この様にすることで、再エネ化が更に進展し、かつ省エネが進み、二酸化炭素CO2排出が減る好循環のサイクルが回ります

項目発電量
(TWh)
温室効果ガス排出量
(Mt-CO2)
Mt-CO2/TJ
石炭332267223.1
石油等74 34128.2
LNG403159109.6
原子力65運転時排出なし  0
水力84運転時排出なし  0
新エネ
(太陽光、風力、地熱等)
86運転時排出なし  0
表3 2018年度の電力構成 参考6)

図3 発電電力別の発電電力量の推移 参考6)

温室効果ガス(GHG)の目標の2030年:「半減」と2050年:「ゼロ」への影響は化石燃料の市場に大きなインパクトを与えます。現在の主要なエネルギーである化石燃料:石炭、石油およびLNGは、二酸化炭素CO2の排出しなく、かつコスト競争力のある代替燃料を確保出来ない場合、2050年には、代替品の需要もも無くなる可能性が大きいと思います。二酸化炭素CO2の多い石炭は、早い段階で使用禁止となるでしょう。実際、ヨーロッパでは複数の国が2030年までに石炭火力の全廃を宣言しています。化石燃料の代替燃料としてはグリーン水素、この水素からLNGの主成分のメタンガスCH4、液体のアンモニアNH3、二酸化炭素CO2を反応させた液体の合成燃料へ転換することも検討されています。 バイオ燃料も液体状の燃料です。何れの代替燃料にはコストの問題の解決と2050年を想定した、全体を通した二酸化炭素CO2排出ゼロの達成が必要です。これは、電力の再エネ化と比べるとハードルが非常に高いと考えられます。2050年に向けて、加瀬に燃料の需要は大幅に縮小するのは避けれないと推定しています。

公平性や将来見通しを明確にするためには、化石燃料の毎年の使用量の上限を決めるのが有効ではないかと思われます。図4は2021年を100%として、2030年と2050年を目標に合わせて直線的に漸減させる案となっています。

図4 化石燃料の削減計画

ご参考までにこのWEBの関連記事のリンクです。

日本政府の2050年カーボンニュートラル戦略について

日本としてRE100電力とカーボンニュートラルを達成する計画

日本のカーボンニュートラル案を創る

二酸化炭素CO2と水素H2からメタンCH4をつくり都市ガスに使う

土壌に二酸化炭素CO2を貯留する方法について

日本のブルーカーボン

二酸化炭素回収・貯留CCSの利用について

参考資料
参考1)環境省データ例 図1、表1作成用
https://www.env.go.jp/press/108734.html

参考2)資源エネルギー庁 図2
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/pdf/003_s03_03.pdf

参考3)産業分野別の石炭消費量 表2
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/kogyo/pdf/001_03_00.pdf

参考4)石油製品需要量 表2
https://www.hkd.meti.go.jp/hokno/graph_oil2019/graph2019.pdf

参考5)日本のLNG輸入量 表2
https://www.gas.or.jp/tokucho/torihiki/

参考6)資源エネルギー庁 図3、表3
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/pdf/003_s03_03.pdf

参考7)環境エネルギー政策研究所
https://www.isep.or.jp/archives/library/13188