二酸化炭素回収・貯留CCSの利用について

まとめ
◇二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術を利用することで、化石燃料を使いながら二酸化炭素CO2の大気への排出を抑えることができる
◇CCSはエネルギーを全て再生可能なエネルギーで賄うまでの暫定的な手段とみることもできる
◇CCSの最大の課題はそのコストである

今回のテーマは二酸化炭素の回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)です。文字通り、化石燃料を燃焼させた時などに発生する二酸化炭素CO2を分離・取り出し、安全に地中に貯め込んで保管(貯蔵)する技術です。

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とは?

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、二酸化炭素回収・貯留技術 資料1)と呼ばれます。発電所や化学工場などから排出された二酸化炭素CO2を、他の気体から分離して集め、地中深くに圧入して長期間貯留するというものです。CCSでは、二酸化炭素CO2を地中に封じ込めるため、数の様に貯留層とその上部に遮へい層が形成された地層部を利用します。遮へい層は、貯留層に圧入したCO2が貯留層から漏れ出さないよう遮へいする地層です。

世界各地でCCSの実証実験が行われています。日本では北海道・苫小牧市でCCS大規模実証試験 資料2)が行われいます。2016 年 4 月から注入を開始し、2019年11月22日に累計30万トンのCO2の圧入を終え、二酸化炭素CO2が長期間漏れないかの監視を継続しているとのこと。

調査によると、日本の二酸化炭素貯蔵可能量は約1,461億トンと推計 資料3)されています。この量は日本の二酸化炭素CO2排出量の百数十年分に相当しますので、CCSを長期間利用しても問題ないと考えられます。以上から技術的にも資源的にもCCS技術は活用出来そうなことが分かりました。

出典:経済産業省 我が国のCCS政策について(平成28年11月24日)

CCSの活用方法

CCSの活用方法の幾つかを表に示した。1~2の活用では、化石燃料を燃焼あるいは化石燃料から水素を取り出す工程で二酸化炭素を回収・貯蔵しています。したがって、原料に化石燃料を使用しても、全体としては、二酸化炭素CO2の大気中への放出は無いことになります。

再生可能エネルギーが不足し、一部には化石燃料を使用し続けざるを得ない状態下で、CCSを活用すると二酸化炭素CO2の排出を抑制できます。したがって、CCS技術は、再生可能エネルギー100%(RE100)までの繋ぎの暫定的な技術との位置付けと考えることもできる。

CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageは、分離した二酸化炭素CO2を他用途に利用しようというものです。産油国などでは、CO2を油田やガス田に圧入して、石油や天然ガスの取り出しに活用できるとのこです。産油国でない日本では化学合成の材料として二酸化炭素を使うことしかなさそうです。

一方、バイオマスやバイオ燃料に二酸化炭素回収・貯留CCS技術を適用すると、バイオマスなどが成長する時に大気中から二酸化炭素CO2を吸収し、燃焼時にそれを回収・貯蔵するので、全体として大気中の二酸化炭素CO2は減少することになります。

項目利用二酸化炭素CO2のネット増減
化石燃料の燃焼時のCO2を回収火力発電所他ゼロ
2化石燃料からCO2フリーのエネルギーに変換褐炭や天然ガスから水素H2生成ゼロ
3バイオマス、バイオ燃料からCO2を回収火力発電所他減少
4CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)①石油やガスの取り出しに利用し貯蔵
②化学合成の原料として利用
①ゼロ
②増加の抑制効果
CCS技術の展開

CCSの課題はコスト

二酸化炭素回収・貯留CCSの最大の課題はコストです。IPCCが発電所のCCSのコストを試算 資料4)しています。発電所で二酸化炭素CO2を回収すると発電コストが0.9-3.4 US$ct/kWh増加するとしています。CCSには、更に、輸送と貯蔵のコストが追加されます。石炭火力発電所の例では、輸送と貯留のコストは、0.05-0.6US$ct/kWh程度としている。kWh当たりから二酸化炭当たりに数値を換算すると、CCSコストは29-74US$/t-CO2となる。これらの数値は発電コストが現在より20~30%も上昇することを意味しています。したがって、炭素税などの二酸化炭素CO2の排出を制限する規制が無い限り、CCSが普及する見込みはないと思われます。

次は日本のCCSの試算です。政府は2030年ごろのCCSの実用化を目指していますが、鍵となるのは低コスト化技術と考えられています。経済産業省では、二酸化炭素CO2の回収コストを現在の約4,200円(化学吸着法)を2030年には1,000円台(膜分離法)に下げる計画を推進しています。日本国内の現状の輸送と圧入コストは約3,000円 資料5)とのことです。輸送と圧入コストが諸外国に比べて著しく高いことに対する解決策も必要となります。

次にカーボンプライシング(Carbon Pricing、炭素価格付け)をチェックしておきましょう。日本では2012年10月から地球温暖化対策のための税(温対税)として、全化石燃料に対して 289 円/t-CO2 の炭素量に比例した課税をしています。更に、炭素に価格を付ける目的で課されていないエネルギー税として、ガソリン・軽油・航空機燃料・重油・灯油:779円/t-CO2、LPG・天然ガス:400円/t-CO2、石炭:301円/t-CO2が課税 資料5)されています。二酸化炭素CO2排出量が多い石炭の税率がもっとも低いのが特筆されます

国際比較するために、炭素税及び排出量取引制度による炭素価格に、エネルギーに対する全ての課税による炭素価格を合計した「実効炭素価格」をOECDが試算 資料6)しています。米国:5.6€、日本:34€、ドイツ:59€、フランス:65€、英国:75€、オランダ:88€、スイス:105€と試算(2012 年4月時点)されています。日本の実効炭素価格34€/t-CO2は、EU 加盟諸国と比較して低い水準にあるとのことです。

何れにしても、日本の炭素税相当分は二酸化炭素回収・貯留CCSの将来見込コストと比べると少な過ぎる様です。税体系を見直しするとしても、CCSを活用するには炭素への課税額を数千円/t-CO2の追加が避けられないと見込みです。

参考資料

資料1)CCSとは?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

資料2)苫小牧におけるCCS大規模実証試験
https://www.japanccs.com/news/20200515osirase/

資料3)我が国の貯留ポテンシャル P10
http://www.env.go.jp/council/06earth/y0618-17/ref01.pdf

資料4)IPCCレポート
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/srccs_wholereport-1.pdf

資料5)CCSの有効性評価
http://www.rite.or.jp/Japanese/project/tityu/yuko.html

資料6)カーボンプライシングのあり方に関する検討会
https://www.env.go.jp/council/06earth/y0619-01/ref01_02.pdf