商社株を保有し続けるか

まとめ
◇大手商社の脱炭素化は、日本や世界の課題そのもの
◇大手商社の化石燃料事業、金属事業および発電事業は、脱炭素社会へ向けた早急な転換が求めらる
◇化石燃料の販売先からの温室効果ガスGHG排出(二次排出)はインパクトが大きい

私は、高配当が魅力で大手商社株を保有していますが、今後、どうするか迷っています。そのため、今回はESGの「Environment(環境)」「Social(社会)」の観点から大手商社株を分析します。

大手商社

大手商社株は、株式市場では低い評価となっており、企業評価指標のPBR(株価純資産倍率)が1以下だったり、PER(株価収益率)が10以下の銘柄が多くなっています。商社株は高配当銘柄と言うことで保有されている方も多いと思います。2020年8月末にウォーレン・バフェット氏が商社株を大量に買ったことも話題になりました。

商社の中でも大手商社を対象に調査します。平時の純利益(新型コロナ肺炎などの影響がない年)は、伊藤忠と三菱商事が5,000億円規模、三井物産が4,000億円規模、住友商事と丸紅が2千数百億円規模と予想しています。三菱商事と三井物産の利益は、資源「石炭、石油、LNGなどのエネルギー資源および鉄、銅、アルミなどの金属資源」および発電事業の割合が大きい 注意1)のが特長です。2019年度の数値的では、三菱商事:65%と三井物産:91%となっています。逆にこのウエートが低いのは伊藤忠35%と住友商事32%です
注意1):資源と発電事業の括りの中に他の項目も一部含まれている会社もありますので、数値は大まかな数字と理解ください。

住友商事と丸紅は国内より海外のビジネスの規模の方が大きい 参考1)。他の商社は海外で調達したモノを国内向けに輸入するビジネスが中心となっています。伊藤忠は79%と断トツの国内向けビジネス中心となっています。このように海外の売り上げが少ないことは成長のチャンスを逃す可能性が高いと推定されます。

大手商社の株主総会招集通知

温室効果ガスGHG排出量は、各社のホームページの「サステナビリティ・CSR」に掲載されています。下表の数値は2019年の値でスコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)とスコープ2(他者から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)相当で、連結を含みます。三菱商事のデータが大きくなっているのは定義を少し拡大しているせいかも知れません。三井物産はスコープ3(バリューチェーン排出)のデータも開示しています。スコープ1~3では35.8 Mt-CO2と約4倍となっています。

商社の温室効果ガスGHGの排出は本当にこれだけでしょうか?

商社名伊藤忠三菱商事三井物産住友商事丸紅
平時純利益規模(億円)5,0005,0004,0002,5002,200
 内、資源と発電の割合(%) 35 65 91 32 41
海外売上(%) 21 45 46 56 59
GHG排出量(Mt-CO2) 2.0 9.4 3.8 1.5 1.0
PBR/PER Yahooファイナンスより1.5/8.80.81/120.9/9.30.8/8.31.1/7.5
大手商社比較

商社の脱炭素社会に向けた課題

大手商社を話題に取り上げるべくデータを収集していたところ、週刊ダイヤモンドから「商社非常事態宣言」なるセンセーショナルな特集(2021年/6月/19日号)が出て来ました。同記事では7つのリスクがあるとしています。リスクその1が「脱炭素で撤退戦」となっています。具体的には、発電事業の中の二酸化炭素の排出の多い石炭火力の問題を取り上げています。発電も関心があるテーマではありますが、温室効果ガスGHGの排出に影響する全事業を取り上げていないのが残念です

発電事業は再生可能エネルギーに切り替えて行くことで脱炭素化が可能と考えています。世界の状況を見ると、電力に関しては解答が見えています。より大きな課題は、脱炭素社会へ転換する過程であり、商社の資源ビジネスの方だと考えています。商社は、(発電事業を除くと)自社で化石燃料などを燃やすわけではありませんが、商社のお客様が燃料を燃焼させて二酸化炭素CO2の排出しています。この様な、二酸化炭素CO2発生を二次的な発生と定義します。商社はこの二次的な二酸化炭素CO2の発生がとても多いのですLNGは、石炭に比べると約50%の二酸化炭素CO2の排出量となり、石炭よりは環境に良い燃料ですが、ゼロにする筋道が未だ見えていません。金属資源ビジネスも、金属を精製する工程で大量の二酸化炭素CO2を排出しており、脱炭素の筋道が未だ見えていません

商社の金属事業

大手商社は、鉄、銅、アルミなどの金属の事業を幅広く行っています。具体的には、鉱山への投資・開発、原料の取引、金属の取引などに携わっています。

鉱物から純粋な金属を取り出すには、加熱、化学手法の還元(酸素を除く工程)、電気化学的手法の電気分解などの工程で大量のエネルギーをが必要となります。エネルギーは、化石燃料の燃焼や電気エネルギーの形で使われて、多くの温室効果ガスGHGである二酸化炭素CO2を排出することになります。商社は鉱物原料や還元剤の原料炭(高品位石炭)などを製鉄会社、非鉄金属製錬会社などへ販売しています。

十分なデータが開示されていないために、商社の金属事業に関連した二次的な温室効果ガスGHGの排出量の見積もりは現状では難しいです。せめて、取扱量が金属に換算して何トンかわかると凡その状況が分かると思います。原料炭に関しては、次のセクションで見積もっています。

金属鉱物原料金属の製錬方法
鉄Fe鉄鉱石(Fe23他)原料炭/コークス(還元) 参考2)
銅Cu銅精鉱(CuFeS2)電解(電気分解)参考3)
アルミAlボーキサイト(主成分Al2O3融解塩/溶解塩電解(電気分解) 参考4)
代表的な金属と製錬方法

商社のエネルギー事業

商社のエネルギーに関する事業は、発電事業燃料事業の2つです。発電事業は、電力会社と同様に発電所を所有あるいは発電事業者に出資して発電した電力を供給・販売するビジネスです。燃料事業は、出資して権益を持つ会社から調達した石炭、石油、液化天然ガスLNGなどを販売するビジネスです

発電事業に関しては各社のホームページに情報が開示されています。ただ、詳細なデータが不足している商社もあります。そこで、先の週刊ダイヤモンドの記事を参考にして各社の発電事業を発電方式毎に一覧表にしました。伊藤忠商事を除くと、大手商社は、それぞれ、発電容量規模で凡そ10GWの設備を保有しています住友商事の石炭火力のウエートが大ききことが分かります。この表を基に発電事業からの二酸化炭素CO2排出量を見積もってみます。

発電方式伊藤忠三菱商事三井物産住友商事 丸紅
石炭火力 6471,1341,9754,8662,640
ガス・石油他1,5795,1987,3512,5197,560
再生エネルギー 3623,1191,6461,9461,800
発電容量2,5889,45010,9719,73112,000
商社の発電事業 単位:MW

上記表では、ガスと石油の発電方式が1つに括られて分離出来ていません。一般には石油火力の割合は少ないので、全部ガスと仮定して計算することにしました。また、設備利用率やCO2排出原単位のデータもありませんが、一般の標準的なデータを参考に見積もる 注意2)ことにしました。発電容量の小さい伊藤忠を除くと、大手商社は、発電事業で、年間、18~39 Mt-Co2を排出していることになります。石炭火力のウエートが大きい住友商事の排出量が飛び抜けて大きくなっています
注意2)設備利用率:80%、kWh当たりのCO2排出量(石炭火力:943g、LNG火力:474g)として計算しています。

商社伊藤忠三菱商事三井物産住友商事丸紅
石炭由来4.37.513.132.217.4
ガス由来1.210.45.56.56.0
合計5.517.918.538.623.4
発電事業に伴うCO2排出量の試算 単位:Mt-CO2

商社のホームページに化石燃料の取扱い量が開示されています。石炭の内、製鉄などに使われる原料炭の取扱量は開示されていますが、主に発電に使われる一般炭のデータが開示されていない会社もあります。丸紅と三菱商事は原料炭のみが開示されています。商社で取り扱う化石燃料からの二次的排出量、つまり、最終ユーザーが燃焼させて排出する二酸化炭素CO2の量を見積もりました。三菱商事と三井物産は化石燃料の取扱量が多く、二次的排出量は、それぞれ107と62 Mt-CO2となります。日本全体の総排出量は12億トン(CO2換算、2019年度)ですから、三菱商事だけで約9%、大手4商社合計で17%相当 注意3)になります。更に、上記の発電事業の伴う排出量も加えると、大手商社5社の排出量は日本の総排出量の26%相当になります。
注意3):ここでの数値は日本の総排出量の何パーセントに相当しているかであり、国内で実際に排出されている量ではありません。つまり、海外の発電所で発電した電力は現地で消費されているし、化石燃料も日本以外の国に輸出分もあるからです。

伊藤忠三菱商事三井物産住友商事丸紅
石炭(Mt/? 31.2 12.26.75.9
石油(kバレル/? 36 685.8↓石油+LNG
LNG(kバレル/?1811898.427
CO2排出量(Mt/年)107621818
取扱う化石燃料からの最終的な二酸化炭素排出量

参考資料
参考1)地域売上分布
https://media.genseki.co.jp/columns/1095/

参考2)鉄製錬
http://www.isc.meiji.ac.jp/~sano/htst/History_of_Technology/History_of_Iron/History_of_Iron_background01.html

参考3)銅製錬
https://www.ppcu.co.jp/about_ppc/processes.html

参考4)アルミ製錬
https://kimika.net/m2arumiseiho.html