土壌に二酸化炭素CO2を貯留する方法について

まとめ
◇土壌は大気中の全二酸化炭素の約2倍の量を貯留している
◇土壌中の炭素の貯留量を増加させるには、有機炭素の供給量を微生物による分解による減少を上回る量に維持すれば良い
◇堆肥などの有機物を継続的にすき込み土壌中の有機炭素量を最大化する方法と植物の根のスベリン(コルク質)を増大させるバイオ技術の2つが検討されている

 今回は土壌に二酸化炭素CO2を固定することがテーマです。農地などの土壌に二酸化炭素を固定する方法は2種類が提案されています。有機物を継続的にすき込むことで農地の土壌の二酸化炭素の貯留量を最大化する方法および植物の根のスベリン(コルク質)を活用した炭素の固定化方法です。

はじめに

 土壌は、地球の陸地表面から約1mの深さで、鉱物、有機物、生物、水、空気などの混合物からなっています。土壌の有機炭素(有機物として貯留された炭素)は1,580Gt(10億トン)と巨大で、大気中の二酸化炭素の2倍あるいは陸上植生(樹木や植物など)の3倍となっています 文献1)。農地などをスマートに管理できれば、土壌の炭素量を増やすまたは最大化することで温暖化を緩和することができます。

出典:農林水産省 農地による炭素貯留について 文献4)

土壌の二酸化炭素の貯留量の最大化

 有史以来の人類の土地活用によって失われた土壌炭素の量は500Gt 文献2)と見積もられている。農地や牧草地を上手にコントロールできれば、土壌の炭素の供給量が微生物による分解量を上回り、土壌炭素を回復させることができます。

 農研機構 文献3)によると、世界の乾燥地域では、農地土壌の炭素量増加により穀物生産の干ばつ被害が抑えられかつ穀物生産額を増加させることができる。更に、追加可能な炭素量:4.87Gt(二酸化炭素CO2)は、世界の年間二酸化炭素CO2の排出量の50%に相当すると見積もっています。

 日本全体としてみると、農地は二酸化炭素CO2の排出源となっているが、土壌に対する有機物の施用などによる有機炭素の貯留量の増加により、正味の二酸化炭素の排出量を減らすことができる。化学肥料を使用し続けると有機炭素は減少するが、堆肥などの継続的施用により一定量の有機炭素が保持可能となる。畑に堆肥1.5t/10aを施用した場合、年間140~630kgCO2/10aの有機炭素が貯留される 文献4)。

 農林水産省の計画 文献4)を下表に示します。ネットネット(正味)の二酸化炭素CO2の排出量の削減は約400万トンが期待できる。この数値は日本全体の二酸化炭素CO2の総排出量の約0.3%に相当します。ただし、農地土壌の二酸化炭素の削減量を国際的に認めてもらうためには、農地からの温室効果ガス排出に関するデータの蓄積およびその推計方法など、農地管理の認定が前提とのことです。炭素貯留を高める農地管理の方法は文献2)が参考になります。

1990年
(基準年)
2010年2020年
排出量(万トン)775486390
吸収量(万トン)
(ネットネット)
289385
農地土壌による二酸化炭素CO2排出・吸収量の試算
出典:農林水産省の計画 文献4)

植物や樹木の根の活用

 Joanne Choryさんのグループ 文献5)が検討しているのは、あらゆる植物の根に自然に含まれる物質であるスベリンを活用すると言うアイデア 文献6)です。 微生物は植物を分解する際に酸素に引き寄せられるのでスベリン中の多くの炭素元素が分解されずに残ることで炭素を地中に貯留する。バイオ技術を使って、①農作物の根により多くのスベリンを作らせる、②根をより多く作らせる、③地中深くまで根を張らせることを検討しています。農作物の収穫後の根は残渣として土壌に残されるので収穫する度に炭素が地中に蓄積されて行くことになります。
※スベリン(suberin)はコルクの主要な構成成分であるため日本語ではコルク質と訳されています。

ワインのコルク栓
コルクガシの樹皮製

【参考文献

文献1)
https://www.japan-acad.go.jp/pdf/kouen/54-3.pdf#search=%27%E6%A4%8D%E7%89%A9%E3%81%AE%E6%A0%B9+%E7%82%AD%E7%B4%A0%E8%B2%AF%E8%94%B5%27

文献2)
https://www.maff.go.jp/hokuriku/seisan/kankyo/pdf/h25_giken.pdf

文献3)
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/133701.html

文献4)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/13/pdf/data3_3.pdf#search=%27%E3%82%B9%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%B3+%E7%82%AD%E7%B4%A0%E8%B2%AF%E7%95%99%27

文献5)
https://www.salk.edu/scientist/joanne-chory/

文献6)
https://www.ted.com/talks/joanne_chory_how_supercharged_plants_could_slow_climate_change