二酸化炭素CO2フリー水素
まとめ
◇水素H2は地球温暖化防止の一翼を担うが、その将来がバラ色と言うわけではない
◇水素H2は二酸化炭素CO2フリーから二酸化炭素多量発生の水素まである
◇水素H2の導入には現実的な対応が必要である
今回のテーマは、地球温暖化防止の観点からの水素利用の位置付けです。水素H2は利用時/燃焼時に水を生成するのみで二酸化炭素CO2を排出しないためクルーンエネルギーと宣伝されていますが、製造工程や供給までのサプライチェーンを考慮しないと二酸化炭素CO2の排出量を逆に増やしてしまいます。
水素の用途
国レベルで二酸化炭素CO2の排出量をゼロとするカーボンニュートラルを達成するには、電力の再生可能エネルギー化率を増加させながら、あらゆるエネルギーを効率の良い電力に転換して行く、つまり電化が基本です。電化でカバーできないエネルギーの用途を二酸化炭素CO2フリーな水素H2で補うことで(エネルギーの観点の)持続可能な社会が実現できるのです。
太陽光発電や風力発電は再生可能エネルギーの主要な役割を担いますが、その出力は常時変動します。また、再生可能エネルギーの資源には国や地域の偏りがあります。そのために、余剰電力で水素H2を製造し、貯めておいて、必要な時に発電などに使うあるいはエネルギーが不足する地域や国に輸出することが考えられます(エネルギー貯蔵の用途)。化学工業や製鉄には電化では困難な高温プロセスが伴います。その場合は水素H2を燃焼させて対応する方が好ましい(高温加熱プロセスの用途)。自家用車などの大半は電気自動車EVに置き換え可能ですが、大型の輸送部門であるバス、トラック、船舶、航空機などは水素H2エネルギーの方が適していると考えられています(大型輸送の用途)。水素の貯蔵・輸送には困難が伴います。気体(ガス)のままでは嵩張ります。液化することで嵩の問題は解決しますが、液化の温度が一般的に利用されている液体窒素より57℃も低い低いのがネックです。さらに、使用時に液体から気体に戻す供給工程も必要となります。これらの解決策として都市ガスの供給網を活用することも提案されています(都市ガス代替の用途)。更には、水素H2ではなく、扱いやすい都市ガスの主成分のメタンCH4 参考資料4)、アンモニアなどに変えて使用する検討もされています。
用途 | 内容 | 備考 |
エネルギー貯蔵 | 余剰電力対策 負荷平準化 エネルギーの輸出入 | 蓄電デバイスや長距離送電線と競合 |
高温加熱プロセス | 化学合成 製鉄 | 電化での対応が困難な用途 |
大型輸送 | トラック、バス (一部の)鉄道 航空機 | バイオ燃料と競合 |
都市ガス代替 | 都市ガス供給ラインの活用 | 水素輸送の問題の解決 |
水素の種類
水素の製造法はバラエティーに富んでいます 参考資料1)2)。水素H2を使用する時には製造法や供給方法を確認する必要があります。製造法のみならず、液化→気化と輸送法などの供給方法で二酸化炭素CO2排出量が変わってきます。今後、供給される水素H2毎にカーボンフットプリントを付けなくてはならない時代が来るかもしれません。環境を考慮すると、製造法では、グリーン、ターコイズあるいはブルー水素が使用の候補となると思います。数十年から100年単位の長期間の持続可能性から判断すると、ターコイズ水素とブルー水素は暫定的な使用に限定されます。
二酸化炭素CO2フリー水素なグリーン水素(Green Hydrogen)は再生可能電力が余剰の時に創られるとコストメリットが出せます。ターコイズ水素(Turquoise Hydrogen)は固体炭素(炭)を燃やさないで炭素を回収することで二酸化炭素CO2フリー水素H2となります。ブルー水素(Blue Hydrogen)は化石燃料から水素H2を取り出す方法ですが、製造時に発生した二酸化炭素CO2を回収して貯蔵することで、実質的な二酸化炭素CO2の排出は有りません。サウジアラビアでの天然ガスプロジェクト(日経新聞2020年9月29日)とオーストラリアでの褐炭プロジェクト 参考資料3)が動いています。グレー水素(Grey Hydrogen)はブルー水素が製造時に発生した二酸化炭素CO2を回収し貯蔵するのに対して放出させます。その他、ブラウン水素、イエロー水素およびホワイト水素もある。
何れの水素もコストの問題が最大の課題です。水素の製造コストが自体が高いのと、更に、天然ガスより高い、液化、輸送~供給までのコストが追加されます。したがって、現実的には、水素H2技術のイノベーションの動向を見ながら、コストが高くても受け入れられる或は代替策が無い分野を中心に水素H2エネルギーを段階的に導入して行くのが現実的だと推定されます。
色による区別 | 説明 |
グリーン green | 再生可能エネルギー由来の電力を利用して水の電気分解で水素を生成する |
ターコイズ turquoise | 溶融金属中に天然ガスを通過させて再生可能エネルギーで熱分解して水素を取り出す。副産物として固体炭素を生成する |
ブルー blue | 次のグレー水素の一種類ですが、発生する二酸化炭素CO2を分離し、再利用または地下または海中に貯蔵する |
グレー grey | 水蒸気改質法により、石炭や天然ガスなどの化石燃料から水素を取り出す。副産物として一酸化炭素COと二酸化炭素CO2を放出する |
ブラウン brown | 上記のグレー水素の内、二酸化炭素CO2の排出量が多い石炭から生成された水素 |
イエロー yellow | 原子力発電を利用して水の電気分解で水素を生成する |
ホワイト white | 工業プロセスの副産物として生成する水素。食塩から水酸化ナトリウムと塩素ガスを製造する電気分解工程など |
ドイツ連邦「国家水素戦略」による分類他
参考資料
参考資料1) Germany paints hydrogen energy future in green, grey, blue and turquoise
https://uk.reuters.com/article/uk-germany-energy-hydrogen-factbox/factbox-germany-paints-hydrogen-energy-future-in-green-grey-blue-and-turquoise-idUKKBN23H1KK
参考資料2) ブラウン~ホワイト水素
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008604/1008834.html#_ftn9
参考資料3) グリーン水素(Green Hydrogen)に未来はあるか?
https://green-ez1.com/2019/10/17/future-for-green-hydrogen/
参考資料4) 二酸化炭素CO2と水素H2からメタンCH4をつくり都市ガスに使う
https://green-ez1.com/2019/10/07/use-methane-generated-from-carbon-dioxide-and-hydrogen-for-city-gas-line/