日本のカーボンニュートラル案を創る

まとめ
◇日本のカーボンニュートラル化のためには、以下の3点を三位一体で推進する必要がある
 ①電力の再生エネルギー化100%(RE100)を早期に達成する
 ②エネルギーの使用効率が良い電化シフトを推進する
 ③省エネ化を徹底する

今回のテーマは国レベルのカーボンニュートラル案(Carbon Neutral Plan)を提案するです。日本全体をカーボンニュートラルにするのは大変難しい課題ですが、チャレンジしてみましょう。カーボンニュートラルを達成することでエネルギーの海外依存から脱却するチャンスと捉え前向きに取り組みましょう。

日本の二酸化炭素排出量

日本の二酸化炭素排出量 資料1)は、2018年の統計では約10.6億トン/年となっています。企業・事業所部門が最大で5.9億トン、率で全体の約56%を占めています。続く運輸部門は2.1億トン(20%)となっている。家庭部門は1.7億トン(16%)です。残りの0.9億トン(8%)のエネルギー転換部門とは、発電、変電、送電関連の部門のことです。

発電所の冷却塔
部門直接排出量
Mt-CO2
企業・事業所他部門594
 内、製造業373
 内、農林水産鉱建設業25
 内、業務他196
家庭部門166
運輸部門210
エネルギー転換部門89
合計1,059
日本の二酸化炭素の排出量(FY2018) 資料1)

エネルギーの利用部門毎に、電力に区分して、エネルギーの使用状況を資源エネルギー庁のデータ 資料1)からまとめました。なぜ、電力と熱を分離するかと言うと、効率の低い熱がどの程度使われているかの実態を知る必要があるからです。先に日本の二酸化炭素排出量は、総量約10.6億トン/年(2018年度)と述べましたが、電力と熱に分解すると、それぞれ、電力:4.3億トンと熱:6.3億トンになります。熱の使用量の方が電力より約1.5倍大きいことが分かります。

家庭部門では、エアコンなどの普及により、電力の使用量の方が熱より多くなって来ています。とは、冬季の灯油あるいはガス燃料のストーブによる暖房、ガス給湯器で沸かしたお湯をお風呂や洗面に使うなどを言います。食品会社では、ガス燃料を使い工場の冷房、食品加工の蒸す、焼く、揚げる(フライ)工程などで熱を使っています。図より、化学工業、鉄鋼や運輸部門は、特に、電力より熱の使用量が多いことが分かります。化学工業では合成、分解工程などの化学反応に加熱が必要なためです。鉄鋼では粗鋼をつくる(酸化鉄をコークスで還元する)工程で高熱が必要です。運輸部門はガソリンなどを燃料とする内燃機関で駆動力をつくり出しています。

部門毎の使用エネルギー(電気と熱の分離)

電化による効率化

今回は熱効率に焦点を絞ってみます。加熱や冷却の効率を高める鍵はカルノーサイクル(ここの場合は、逆カルノーサイクル)です。カルノーサイクル(Carnot cycle)とは、TH:高温側温度とTL:低温側温度の2つの熱源間で可逆的に動作する熱サイクルのことを言います。冷房の場合は、THが外気温度とTLが室内の温度となります。温度は絶対温度(℃温度+273で計算し、単位はK(ケルビン))で示されます。理想的な逆カルノーサイクルの効率を示す成績係数 資料3)は、η加熱=TH/(TH-TL)或はη冷却=TL/(TH-TL)で得られます。特徴的なのは、成績係数は熱源の絶対温度のみで決まるということです。また、TH:高温側温度とTL:低温側温度の差が少ないほど、成績係数は大きくなります。

理想的な逆カルノーサイクルの成績係数を計算し図示してみました。エアコンの場合、300K(27℃)付近では成績係数は大きくなっています。これは外気温度と室内温度の差が小さくなるからです。理想的なエアコンの場合は、成績係数は常時10を大きく超えています。一方、湯沸(エコキュート)はエアコンに比べると成績係数は小さくなっています。理想的なエコキュートの成績係数は5を超えています。

実際のエアコンやエコキュートのエネルギー効率はどうなっているのでしょうか? (一財)ヒートポンプ・蓄熱センターのデータ 資料4)では、AFP数値がエアコン:8、エコキュート:4となっています。APFとは、「年間で発揮した能力÷1年間で必要な消費電力」を示しています。これらの数値は先の理想的なエアコンや湯沸(エコキュート)の数値と比べるとかなり小さくなっています。エアコンの両者の数値の違いが大きくなるのは、実際の部屋は、床・壁・窓からの熱の流入/流出および換気に伴う熱の損失など、前提条件が理想的ではないことに原因があります。一方、エコキュートの場合は、エアコンほどの数値の違いはありません。

AFP数値が8や4と言うことは、使用する電気エネルギーの8倍または4倍の熱を吸収あるいは加熱することを示しています。逆に言えば、家庭部門、業務部門の使用する熱エネルギーを1/8または1/4にできるということです。この様に逆カルノーサイクル(reversed Carnot cycle)は省エネの切り札となりますエコキュートのエネルギー効率を測定した例は既に記事にしていますのでこちらをご確認頂きたく。

電力が100%再生可能エネルギーで作られる時代となれば、全てのエネルギーを電力で賄えば国レベルのカーボンニュートラル(二酸化炭素CO2の排出ゼロ)が達成されます。しかし、現状では、電気エネルギーの約82%は化石燃料からつくられ、そのエネルギー転換率は約40%です。したがって、エアコンやエコキュートなどの機器のAPF数値が2以上(=1/0.4×0.82)でないと二酸化炭素CO2の削減効果はないことになります。例として、発熱体を加熱する(ジュール熱)方式のストーブ(電気ストーブ)などは二酸化炭素CO2削減には寄与していません

逆カルノーサイクルの弱点は、現状では、最大使用温度が約165℃と低い 資料6)ことです。これは、化学工業や製鉄/の工程で使う200℃以上の高温領域では使えないということです。高温の工程も、電力が100%再生可能エネルギーの時代になれば電気炉も使用も問題なくなります。一方、代替手段として、グリーン水素(Green Hydrogen)やバイオ燃料(biofuel)を使う方法もあります。(一財)エネルギー総合工学研究所 資料5)も参考にしてください。

エアコン、ヒートポンプの効率を説明する図

二酸化炭素の固定、吸収量

日本の二酸化炭素の吸収あるいは固定できる量については既に記事にしています。項目と潜在的な二酸化炭素量の吸収・固定量を表示しました。全てを合計すると約0.9億トンとなります。日本の広大な海洋の二酸化炭素の吸収量を考慮すると更に約1億トン増加します。しがたがい、日本の二酸化炭素の吸収量・固定量は最大でも約2億トンです。詳細については、過去に書いた記事を参照してください(青字の項目をクリックすると該当記事へジャンプ)。日本の温暖化効果ガスの排出量は、二酸化炭素CO2に加えて非エネルギー起源のメタンCH4他の排出ガスを考慮すると2018年度で約12.4億トン 資料2)となり、約2億トン増加しますのでここでの固定・吸収分を使うのが良いのではと考えています。

項目二酸化炭素固定量(百t-CO2/年)
グリーン‐カーボン(森林の活用)78
土壌貯留4(ネットネット)
ブルーカーボン(海洋の活用)2~9
⇒+104(海洋の吸収量を加えた場合)
日本の二酸化炭素の固定、吸収量

結論

日本を国レベルでカーボンニュートラルにするには、力を早期に再生可能エネルギー100%(RE100)にするのと同時に全ての分野を電化シフトして行くことになります。電力のRE100には、風力発電と地熱発電の導入が鍵となります。自動車はEV化(電気自動車)する。業務部門や家庭部門の熱エネルギーは、熱から逆カルノーサイクル機器(エアコンやヒートポンプ式湯沸器)に切り替え、エネルギーの効率化と省エネを達成する。化石燃料から取り出された高温の熱エネルギーを使っている産業(化学工業や鉄鋼)は電化を検討し、電化が難しい場合は、再生可能エネルギー由来の電力からつくられた水素(グリーン水素)やバイオマスなどの使用を検討し二酸化炭素CO2を削減する。航空機や大型トラックなどにはバイオ燃料も候補になると思います。

エネルギーの消費を熱から電力へ電化シフトして行くと電力エネルギーは現状のレベルで足りるのでしょうか?と言う疑問が湧いてきます。エネルギー使用量の指標で見てみましょう。熱としてのエネルギー使用量 資料1)は現状で9,719PJ(ペタ・ジュール)です。これを電化シフトかつ効率化などで熱エネルギーの消費量が現在の1/10になったと仮定すると電力の需要は約1,000PJ増加(現在の電力需要の約30%相当)することになります。再生可能エネルギーの調達を拡大して埋め合わせるのでしょうか? 産業構造の変革で省エネ化を図るのでしょうか? 一方で、日本は人口減少が急速に進み、2050年代に人口が1億人を割る可能性が高いと推定されています。エネルギー消費とそれに伴うエネルギー使用量は人口にほぼ比例すると考えられます。人口が20%減少すると、日本のエネルギー使用量も約1,000PJ※減少すると考えられます。この場合は電力の再生可能エネルギー化100%(RE100)と熱エネルギーから電化シフトを進めればよいことになります。
※:人口減少20%とエネルギーの電化シフトが完了した段階を想定

参考資料
資料1)資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/


資料2)環境省
http://www.env.go.jp/press/files/jp/113762.pdf


資料3)逆カルノーサイクルの効率
http://fnorio.com/0106heat_engine(refrigeration_cycle)1/heat_engine(refrigeration_cycle)1.htm


資料4)(一財)ヒートポンプ・蓄熱センター
https://www.hptcj.or.jp/study/tabid/104/Default.aspx


資料5)(一財)エネルギー総合工学研究所
https://www.jst.go.jp/sip/dl/p08/report2019_4.pdf

資料6)(一財)日本エレクトロヒートセンター
http://sangyo-hp.jeh-center.org/heatpump_factory.html