森林の二酸化炭素CO2吸収量の最大化

まとめ
◇日本の森林による二酸化炭素CO2の吸収量は、2013年度の実績値(5,166万t-CO2 /年)から2030年度には半減する計画となっている
◇日本の森林は適切に管理すれば二酸化炭素CO2の固定量を約8,000万 t-CO2/年まで拡大できる可能性がある
◇木も齢をとると成長率が低下し、これに伴い二酸化炭素CO2の吸収量も減少する
◇森林による二酸化炭素CO2吸収量を最大にするには定期的な伐採と植林により木の若さを維持する必要がある
◇森林の二酸化炭素CO2吸収量の最大化を目指すべきと考える

 ご存じのように日本の国土の2/3(66%)は森林となっています。この数値は過去50年間ほとんど変化ありません 資料1)。しかし、森林による二酸化炭素CO2の吸収量は年々減少する見込み/傾向となっています。そこでその原因は何かを追求してみました。また、更に一歩進めて森林をどう管理すれば環境に良いのかを考えてみました。

はじめに

 木には、樹木としての命と伐採され後の建築用材としての命の二つの命があると言われています。法隆寺の五重塔や薬師寺の東塔には1300年前のヒノキがまだ現役で活躍しています。ヒノキは伐採されてから200年間くらいまでは強度が強くなる、それ以降は徐々に強度は低下するが千数百年後でも伐採時点と同レベルの強度が維持されている 資料2)。樹木としての命が長いほど、伐採時の木の強度(初期強度)は一般には強くなります。

 太い木の幹は建築材として使われ、燃焼や破棄されるまでの長期間、空気中から吸収した二酸化炭素CO2を内部に保持し続けます。このことは炭素を固定しているとも言えます。21年生(実際の年)のスギの例では、幹の体積を1とすると、枝葉0.23、根など0.31となっている 資料3)。伐採時の枝葉、加工時の端材、間伐などの小さな木などはバイオ燃料としても活用もできます。

森林の二酸化炭素CO2吸収量

 日本の温室効果ガス(GHG)の削減は、化石燃料に起因する二酸化炭素CO2の排出量の削減と、併せて、排出された二酸化炭素CO2を樹木などによる吸収・固定で減らして目標を達成する計画です。林野庁によると、森林による二酸化炭素CO2の固定量は、2013年度の実績で5,166万t-CO2 /年であった。2030年度にはこの数値が半減する2,780万t-CO2 /年として計画を立てています 資料4)。日本の森林総面積は2,504万ha、内、人工林は約41%の1,020万haとなっている。総森林面積は過去50年間変化がなく、人工林は徐々に増加して来ました。これからもこれはの数値は大きな変化はないものと推定されます。このような条件下でどうして2013年から十数年で森林による二酸化炭素CO2の吸収・固定が半減するのでしょうか? 主な原因は森林を構成する木が老化するからなのです。

 樹木は二酸化炭素CO2と水H2Oを材料として太陽からの光エネルギーを使って糖を合成し、酸素O2を放出します。この一連のメカニズムを光合成と言います。更に、糖は木を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどに変換され木は成長します。

 森林の樹木が吸収・固定する炭素量に関しては、資料5)のデータが活用できます。図1は樹木の生長と樹齢の関係を図示しています。樹木の大きさは二酸化炭素CO2吸収・蓄積量と比例し、炭素量にも換算可能です。図1に示しているように幼い木は樹齢と共に炭素を蓄積しながら大きくなるが、やがてピークを迎え、その後は成長速度が徐々に低下しています。スギやヒノキの場合は、樹齢約15年から約20年で成長のピークを迎え、その後は徐々に成長速度が低下しています。広葉樹は成長のピークはスギなどよりは早く迎え、成長速度そのものはスギなどより遅くなっています。一方、樹齢が高くなると成長速度が低下するので年輪間の幅が狭くなり、強度的には強くなります。建築構造材料としては樹齢50年以上でないと使えないとも言われているので樹齢の高いほど強くて良い木となります。
 ※図1と図2は資料5)のデータを元に編集しています

樹木の世代交代(倒木から次の世代の木が育ち始めている)

森林の二酸化炭素吸収量の最大化

 森林をどう管理するのが環境的に一番良いのかを考えます。先に述べたように樹木は高齢になるほど成長率は低下し、年当たりの二酸化炭素CO2の吸収量が低下します。一方、建築材料としては樹齢が高いほど硬くて高品質な木となります。森林を「m」個に均等に区画分けして、最も樹齢が高くなった区画を伐採し、その後に植林をするとして、年当たりどれだけの材木の生産が可能かをシミュレーションしました。区画数「m」は伐採する時の樹齢になります。その結果を図2に示します。スギとヒノキの例では40-50区画分けした場合が炭素蓄積量(木材生産量)がピークとなります。炭素蓄積量は50区画以上でも徐々に低下するだけです。品質の良い材木を確保することを考慮すると50~70区画分けが良いのかも知れません。これは言い換えると約50~70年の周期で伐採して行くことになります。

 日本の森林のデータを使って最大でどの程度の炭素を蓄積(固定)可能か推定して見ましょう。この計算では樹木の幹は全て建築やバイオ材料などに使うことで炭素が固定されると仮定しています。日本の森林の面積は過去50年では変化がありませんでした、今後も、森林面積や人工林と自然林の比も変化しないと仮定します。

 全森林(つまり自然林と人工林)を活用出来れば、日本全体では毎年約8,000万トンの二酸化炭素CO2を吸収・固定が可能です。人工林だけに限ると、この数値は4,200万トンになります。この値は日本の2030年度の計画:2,780万t-CO2の約1.5倍です。したがい、日本の森林は適切に管理して行けば現計画の何倍もの炭素/二酸化炭素CO2を吸収・固定できる可能性があります。また、余った枝葉、根、端材はバイオ燃料としても活用可能で、活用した分だけ化石燃料の消費を削減できます。

樹齢と樹木の生長速度の関係
注:樹木の生長が樹齢25年で低下する原因は不明です。
他の文献のデータではこの様な落ち込みは有りません
樹齢と材木生産量(炭素蓄積量)の関係

二酸化炭素CO2の吸収・固定の見積もり
日本の森林面積 人工林:1,020万ha、自然林:1,484万ha

樹齢40-50年を目安に木を伐採・活用し、人工林は伐採後に植林すると仮定
人工林の炭素蓄積量 1.9t-C/年・ha
自然林の炭素蓄積量 1.1t-C/年・ha

合計の炭素蓄積量 1.9x1,020+1.1x1,484=1,939+1,632=3,570万t-C/年
 木の幹部は全体の60%とすると、3,570x0.6=2,142万t-C/年・ha
二酸化炭素CO2に換算するには、(12+16x2)/12=3.6666倍すれば良いので、
 人工林:1,939x0.6x3.6666+自然林:1,632x0.6x3.6666
      =4,265+3,590=7,855万t-CO2/年

参考資料
資料1)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/190218-12.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%A3%AE%E6%9E%97%E3%81%AE%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0%E5%90%B8%E5%8F%8E+%E6%8E%A8%E7%A7%BB%27
資料2)
https://www.shinrin-ringyou.com/tree/hinoki.php
資料3)
http://www.ffpri.affrc.go.jp/research/dept/22climate/kyuushuuryou/documents/page1-2-per-a-tree.pdf
資料4)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/170214si-10.pdf
資料5)
http://www.ffpri.affrc.go.jp/research/dept/22climate/kyuushuuryou/documents/page1-3-per-ha.pdf