車を化石燃料から脱却させる
まとめ
◇電気自動車を自前の発電システムで充電することで化石燃料からの脱却を計画します
◇自動車には、スペースと太陽電池性能の制約から、必要な容量の太陽電池は積載できない
◇電気自動車および自宅カーポートなどへ太陽電池を積載することで化石燃料からの脱却が可能です
今回は走行時に化石燃料を一切利用しない車について考えます。環境に優しい車として電気自動車(EV)が注目されていますが、製造時には二酸化炭素を排出します。更に、走行時にも間接的に二酸化炭素を排出しています。なぜなら、現時点では、電池の充電に使う電力系統が100%再生可能エネルギーに対応していないからです。そこで自前の太陽光発電システムで電気自動車を充電することを検討します。
電気自動車(EV)について
脱炭素社会の達成には輸送部門も化石燃料からの脱却が必要です。世の中で最も着実に進んでいるのは、水力発電、太陽光発電、風力発電などによる再生エネルギー化による電力の脱炭素化です。電力の再生エネルギー化が進むことで、エネルギーをガソリンなどの化石燃料から電力へシフトすることで脱炭素化することが出来ます。輸送部門も例外ではありません。最近、自動車メーカーからガソリンエンジン車の廃止時期のアナウンス、車載電池の増産・工場新設の発表が相次いでいますが、将来を見越した対応です。
日本の2020年度の電力の状況 資料1)は、自然エネルギー:20.8%、二酸化酸素フリーに加えられる原子力:4.3%となっています。したがって、脱炭素の電力は全電力の25.1%の計算となります。自然エネルギー の導入では、ヨーロッパ諸国が先行 資料1)しています。オーストリア:約80%、デンマーク:約76%、スウェーデン:約68%、ポルトガル:約58%、イタリア・ドイツ・イギリス・スペイン:約40%となっています。
電気自動車(EV)とガソリン車を比べてどちらが走行中のCO2排出量が多いかを比較します。同一車種で比べられる例が少ないので、三菱自動車 参考2)のミニキャブ・ミーブ(軽EV)とミニキャブ・バン(軽ガソリン車)で比べます。同社の仕様書によると、JC08モードでは、ミーブ:127Wh/km(7.87km/kWh)、バン:19.4km/Lとなっています。ここでは、CO2排出係数はガソリン:2.322 kg-CO2/L、東電の電力:0.441kg-CO2/kWhを使います。したがって、走行距離当たりのCO2排出量は、ミーブ(EV):56g-CO2/kmとバン(ガソリン車):120g-CO2/kmとなります。脱炭素化が遅れている日本の電力を使っても、走行中のCO2排出はEVはガソリン車の約半分となっています。 自然エネルギー の導入が進むヨーロッパでEVの走行中のCO2排出量は更に少なく、ガソリン車の1/4以下になっているものと推定されます。
注意:ここでは走行時のCO2排出量ののみを取り上げましたが、自動車は部品の生産や組立時にもCO2を排出しています。したがって、脱炭素化は、車の生産、走行、廃棄までの車の一生を考慮したCO2の排出量の総量で判断する必要があります。このような考え方をLCA(Life Cycle Assessment、ライフ・サイクル・アセスメント)と言います。将来、自動車メーカーから車のモデル毎のCO2排出量のデータが公開されれば個人でもLCAの数値が計算出来るようになります。
ミニキャブ・ミーブ(EV) が一生に10万km走行するとどのくらいのCO2を排出することになるのでしょうか? 東電の現在のCO2排出係数で計算すると5.6t-CO2となります。そこで、走行中のCO2フリー化を検討します。
車への太陽電池搭載について
自動車メーカーが太陽電池を車に搭載する検討を行っています。トヨタはEV航続距離や燃費向上効果の検証を目的とした、公道走行実証を2019年7月下旬から行っています 資料3)。セル変換効率は34%以上、定格発電電力約860Wとなっています。太陽電池の発電によるEV航続距離は44.5km相当/日とのことです。
ドイツのベンチャー企業のSono Motors社 資料4)はソーラーカーを開発中です。7月08日(2021年)から、プロトタイプ車をドイツの10都市で開始したと発表しています。残念ながら、車のスペックは公開されていません。
太陽電池の変換効率や搭載可能スペースの制約で普通車への搭載可能な発電電力は1kWを下回ります。電気自動車の航続距離は、およそ7-9km/kWhとなっています。多くの場合、通常の使用では、走行距離が1日当たり数十kmあれば十分と考えらいます。日本では、太陽電池の稼働時間は平均3.3時間/日(=1,200/365)程度です。 1kW の太陽電池を搭載しているとすると、日当たりの発電電力量は約3.3kWh(=1kWx3.3時間)となります。したがって、燃費の良いEVでも、1kWの太陽電池の発電量では一日当たりの航続距離は約30kmとなります。
充電方法の検討
ガソリン車の三菱自動車 キャブ・バンのJC08モード燃費が19.4km/Lですから、ガソリン代を135円/Lとすると、1km当たりのガソリン代は6.96円/kmと計算されます。廃車迄に10万km走るとするとガソリン代は約70万円かかります。10年で10万km走るには平日の1日当たりに、平均38km走ることになります。ミーブEVの燃費が 7.87km/kWhなので一日当たり4.8kWhの充電が必要となります。
車用の太陽電池候補としては曲げることが可能な樹脂封止のフレキシブルと発電所用のガラス封止のパネルがあります 。何れも、太陽電池はシリコン系が中心です。発電効率は約20%となっています。フレキシブル・タイプは車の屋根への搭載は比較的容易ですが、長期の耐久性が十分か不明です。
太陽電池を搭載するのはバンやワゴンタイプの車の方が水平面が広いのでやりやすい。ここでは、 三菱自動車のミニキャブ・ミーブ(EV) を取り上げて、どれだけの発電用太陽電池が可能かを検討しました。その結果、車にルーフキャリアを取り付ければ、長さ:1324mm×幅:991mmのパネル2枚が取り付けらそうです。パネルの最大出力は220Wですので、2枚では440Wとなります。したがって、一日当たりの平均発電量は計算上1.4kWhとなります。 ミーブの燃費は7.87km/kWhなので、平均で、 1日当たりの航続可能距離は10km程度となります。 これでは、電力不足です。車に予備の太陽電池パネル2枚(30kg)を積んでおき、天気の良い日には出先の駐車場で予備の電池を広げて充電すると航続距離を約2倍に出来ます。この時の太陽電池の合計最大出力は880Wとなります。
出典:ルーフキャリア:三菱自動車のWEBから入手して追加加工
必要な部品も載せておきます。車載バッテリーは電圧を制御すれば直接充電が可能ですが、車には200Vの充電ケーブルが準備されていますのでインバーターで交流200Vに変換して充電します。総額で約16万円となっています。価格は2021年7月時点の通販価格です。
部品・部材 | 内容 | 価格 |
ルーフキャリア | 長さ:2,000mm、幅B:1,355mm、高さC:120mm 最大積載量:50kg | 39,315円 |
太陽電池パネル | サイズ:1324mm×991mm×40mm、重量:15.0kg Voc:30.64V、Isc:9.38A、Pmax:220Wx4枚 | 48,400円 |
インバーター | 入力24V、出力:3,000W、正弦波 220V | 35,903円 |
コンバイナ・ボックス | ブレーカー、6ストリング入力、雷保護、逆流防止ダイオード付 | 19,880円 |
その他 | ケーブル他 | 約15,000円 |
不足の電力をどうするか? 私の場合は土日、祭日が休日です。週2日の土日の休日に不足分の電力を充電することを考えます。1台用のカーポートはおよそ幅:2,500mm、奥行き:5,500mmとなっています。建築面積は10m2未満で多くの場合は建築基準法の確認申請が不要 資料5)となっています。カーポートには車載太陽電池パネルが合計で10枚搭載可能で最大発電力は2.2kWhとなります。太陽電池の追加コストは約12万円となります。太陽光発電システムに蓄電池がない場合、休日の2日で充電できる電気量は14.5kWhとなります。平日の1日当たりに換算すると、2.9kWh/日となり、 航続距離は22kmほど増加します。車載電池との合計で、約4.3kWh、 航続距離で約33kmに相当します。予備の太陽電池パネルを日常的に使うと更に10kmほど伸び、 航続距離は約43kmとなり、太陽電池の発電だけで10年で10万kmが可能となります。
注意:建築基準法の建築確認については資料5)をご参照下さい。
1日の発電電力量(6kWh)を蓄える蓄電池を太陽光発電システムに備えれば、1週間の合計発電量は42kWhとなり、1日当たりでは 航続距離が約66km伸びます。さらに、車載電池分の10kmを加えると、合計の航続距離75kmとなり、多くの場合、これで十分と推定しています。但し、蓄電池が高価で蓄電池に30万円程掛かります。
ここでの太陽光発電システムによる発電量は最大値かつ平均値を使用しています。太陽電池パネルの発電量も冬と夏では太陽高度が異なり発電量に差がでます(冬は発電量が低下)。太陽電池パネルの水平置き、インバータの損失、自動車への充電時の損失などを考慮すると、ソーラーポートに蓄電池を備えるのが現実的と推定されます。
DIYと規制
米国の通販サイトを覗くと、電力供給網に繋がないDIY用off-grid発電システムが多数出品されています。DIYする様子が動画サイトにアップされています。一方、日本ではDIY発電はあまり盛り上がっていません。この違いは何でしょうか? 日本の規制がその原因ではないかと推定しています。
【ご注意】「工事士の資格が不要」あるいは「PSEマーク製品を使う必要がない」場合でも、安全だとは限りません。したがって、安全性には注意し、ご自身の責任で判断し、工事を行ってください。筆者は一切の責任は負いかねます。
電気工事士の資格は必要か?
電気工事士法に規定 資料6)される下記の「軽微な作業」あるいは電気工事とされない「軽微な工事」であれば工事士の資格は不要です。off-grid発電システムは電力会社から供給を受ける電力網から切り離されて使うものです。さらに、組立キットは機器をコネクタとケーブルで繋ぐ「軽微な工事」の範疇と考えられます。
- 電気工事のうち「軽微な作業」(電気工事士法施行規則第2条):保安上支障がないと認められる作業で、電気工事士等の資格を必要としない作業
注意:電気工事士等の資格が必要な作業は、電線相互を接続する作業、がいしに電線を取り付け又はこれを取り外す作業等となっています
2. 「軽微な工事」(電気工事法施行令第1条で電気工事から除外:電気工事士法の電気工事の対象とならない工事で、電気工事士等の資格は不要
① 差込み接続器、ソケット、ローゼット、その他の接続器又はスナップスイッチその他の開閉器にコード又はキャブタイヤケーブルを接続する工事
② 電気機器(配線器具を除く。以下同じ)の端子に電線(コード、キャブタイヤケーブル及びケーブルを含む。以下同じ)をネジ止めする工事等
電気用品安全法のPSEマーク適合品でなければならない?
すべての電気製品が電気用品安全法 資料7)の対象ではありません。電気用品安全法の対象となる「電気用品」については、法第2条において、次のように定義されています。1.一般用電気工作物接続して用いられる機械、器具又は材料であって、政令で定めるもの。 2.携帯発電機あるいは蓄電池であって、政令で定めるもの。上記の1項に関しては、一般家庭など、電力会社が供給する交流100ボルト、200ボルトの商用電源に接続される電気工作物をいいます。また、直流の一般用電気工作物の実績がないことから、直流機器は指定されていません。
off-grid発電システムは電力会社から供給を受ける電力網から切り離されて使うものですから上記1項の規制は受けません。但し、蓄電池は規制を受けそうです。したがって、蓄電池はPSEマークを取得したものを使うべきと考えます。
参考資料
資料1)
https://www.isep.or.jp/archives/library/13188
資料2)
https://www.mitsubishi-motors.co.jp/lineup/minicab-miev/
資料3)
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28781301.html
資料5)
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/111615.pdf
資料6)
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/files/1-3keibi.pdf
資料7)https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/file/06_guide/denan_guide_ver41.pdf