集合住宅のEV対応化について

まとめ
◇EV化対応の課題については、戸建て住宅より集合住宅の方が選択肢も多く、複雑である
◇集合住宅は、急速充電ステーションの設置あるいは各居住者向け充電コンセントを設けることも可能となる
◇規模が大きい集合住宅では、急速充電ステーションおよび各住戸向け充電コンセントの併用も可能であろう

今回のテーマはマンションなどの集合住宅のEV(電気自動車、Electric Vehicle)化対応について検討します。既存のマンションのEV化対応化や見直しは必須の状況となっています。

はじめに

日本の二酸化炭素総排出量(2019年の11億800万トン)のうち、運輸部門からの排出量(2億600万トン)は18.6% 参考1)を占めています。その内、自家用乗用車からの排出量(9,458万トン)は日本全体の8.5%に相当します。一方、地球温暖化防止のために、二酸化炭素CO2の排出を削減する電力の再生可能エネルギー化は着実に進んで行きます。自動車燃料のガソリン依存から電化シフトを行えば、電力の再エネ化の波に乗っかって二酸化炭素CO2の排出量を削減できるし、さらに、電化により総合的なエネルギー効率も改善できます。したがって、自家用車などのEV化は輸送部門の二酸化炭素CO2削減の切り札と考えられています。

欧米ではガソリン車の販売の禁止や削減の時期が発表されています。ガソリン新車販売禁止の発表は英国(2030年)、EU(2035年)など。米国では、2030年に新車の50%をEVとするとバイデン大統領が発表しています。日本もEV化の波は待ったなしにやって来ると考えています

EVの充電も現在のガソリンの供給体制と同様と考えて良いのでしょうか? つまり、ガソリンスタンの代わりに必要に応じて充電ステーションに立ち寄り、満充電(電池を100%充電する)するのが良いのでしょうか? 将来は、充電設備の大容量化が進み、充電時間の大幅な短時間化が見込まれますが、現状では、給油するよりは充電には長い時間が掛かります。また、電力の供給は、気象条件にも依存し、電力需要の大きな平日の昼間や夕方にひっ迫することがしばしば起こります。逆に、快晴の日には太陽電池の発電電力が余ることも起きます。需要と供給の関係で電気料金は時間帯で変動します。したがって、EV化が進むと電力の供給側に影響を及ぼすようになると考えられ、需要側でもEVへの充電時間の調整などの対応が必要となってくると予想されます

駐車場の種類は、平置き駐車場(平面駐車場)、自走式立体駐車場、機械式駐車場がありますが、規模の大きな集合住宅では、後者の2つが一般的だと思います。導入後にEV充電に対応するには、 平置き駐車場(平面駐車場)と自走式立体駐車場がやり易いと思います。私の住んでいる集合住宅では、郊外にあり、一部の平置き駐車場と大規模の自走式立体駐車場が設置されています。

集合住宅の自走式駐車場の例

住宅への電力の配電方法について見てみます。集合住宅も戸建てでも同様です。 積算電力量計(電力メータ)を通して、ホーム分電盤に電力が供給されています。配線は、通常は単相3線式100V/200Vとなっています。真ん中の線(中性線)は白色で接地されています。中性線と両側のそれぞれの線間の電圧は100V、両側の線間では200Vとなります。200V系は電力消費の大きなエコキュート(電気温水器)、IH調理器、大型エアコンなどに使われています。大電力が必要なEVの充電には200V系の方が好ましい。電力会社は、電力メータで電力の使用量を積算し、毎月、電気料金を請求します。

EV充電コンセント等への配電や設置の仕方は添付の資料2)~参考5)をご参照下さい。全体としては電力中研の資料2)、戸建てに関しては日産自動車の資料3)、集合住宅の場合の手続きに関して経産省と国土交通省の資料4)、施工ガイドラインに関しては日本配線器具工業会の資料5)をご参照下さい。

電気自動車の充電設備の種類

EVの充電設備は、経産省によると、普通充電設備急速充電設備の二つに大きく分かれるそうです。普通充電設備は、更に、ケーブル無しのコンセントタイプ(100V、200V)とケーブル付に大別されています。コンセントタイプの場合は、EV車に付属する充電ケーブルでコンセントとEVを接続します。ケーブル付き充電器では、充電器に備わったケーブルでEVと接続します。最新のEVの電池容量は40kWh~80kWhの範囲ですから、電源容量が200Vx20A(4kVA)の充電器で充電すると、満充電(100%充電)までに、少なくとも10時間から20時間も掛かる計算となります。

急速充電設備は、ケーブル付きの充電設備の範疇ですが、急速充電に対応するために、電源容量が大きくなる傾向を示しています。最近では、従来の単相/三相200Vから400Vを超える電圧の交流電源から供給を受け、電源容量を大きくして、充電時間のさらなる短縮化を計っています。

戸建ての場合

戸建て住宅のEV対応は比較的容易です。ホーム分電盤に分岐ブレーカを外付けで追加し、ケーブルを伸ばして、その先にEV専用コンセントを接続し、駐車場に設置します。コンセントや収納箱にはD種接地工事を行います。電圧や電流容量については、単相200V、20Aが適当と考えます。ホーム分電盤からコンセントまでは30A専用線を使用する、コンセントの高さは浸水防止のために地上高約1mとするなどの条件が加わります。

 

戸建てのソーラーハウスの例
点線部がEV充電用回路 ※一般回路は1回線のみ表示

部品図の出典 ブレーカ:三菱電機、専用コンセント:パナソニックのWEBページから

集合住宅の場合

都内の億ション(1億円以上のマンション)を、以前、見る機会がありました。このマンションは総戸数約150戸で、平置き駐車場と機械式駐車場が設置されていました。住民が所有するEVの台数は、当時、数台でした。共用の平置き駐車場の2台に充電器が設置されていました。使用する場合は、集合住宅内のネットで予約して使用することになっていました。私の住む集合住宅にはEVの充電設備は残念ながら用意されていません。規模に関しては、これより数倍大きな住宅です。駐車場は、基本的には自走式駐車場となっています。平置き部にも駐車できるスペースはありますが、居住者の駐車場としては使っていません。

戸建てとの違いは、集合住宅では、居住者のホーム分電盤や電力メータを使って、EVコンセントの配電や電気量の請求ができないことです。最上階の15階から駐車場へEV充電用の電力ケーブルの引き回しには膨大なコストが掛かり、経済的ではありません。また、駐車場の場所は固定されいなく、定期的に入替を行っています。したがって、規模の大きな集合住宅にはそれぞれに最適なEVの充電インフラを検討する必要があります

添付の参考文献を参照し、以下では実現可能と思われる3案を考えました。今後、充電ステーションを運営してくれる事業者を探す、急速充電器や充電コンセントの設置時の課題やコストの調査を進めて行き、最終的にどの案にするか決める考えです。

案1 集合住宅の近く、あるいは、集合住宅の中にに充電ステーションを誘致する
 本案は、集合住宅の中あるいは近所に充電ステーションを誘致し、事業者に運営も任せると言う考えです。この案の良い点は、事業者任せで、初期コストも不要だし、アップグレードや運営の心配も一切ないことです。ただし、採算の目途がないと事業者は投資してくれないと推定され、これが最大の課題と推定しています。

案2 各駐車場に充電コンセントを設置する
 本案では集合住宅の共用設備として全駐車スペースに充電コンセントを設置します。使用した電気代は共用部の電気代として一括支払いますが、充電器を利用する居住者に負担してもらう仕掛けが必要となりますので子電力計(子電力メータ)を追加します。また、当集合住宅はオール電化(エネルギーは電力で全て賄う、つまり、ガスなどは一切使わない)となっいて、深夜電力が相当安く設定されていますので、充電の時間帯を制御するタイマーも追加します。

充電コンセントを設置する案

部品図の出典 ブレーカと電力メータ:三菱電機、タイマーと専用コンセント:パナソニックのWEBページから

案3 急速充電器と充電コンセントを併用する
 本案では、急速充電器と充電コンセントを併用します。当面は共用の急速充電器を複数台設置して対応する。EVの使用台数が増える見込みが立った段階で充電コンセントを一気に増やすなど時間差対応が可能となります。

急速充電器と充電コンセントを併用

部品図の出典 急速充電器:新電元工業(株)、 ブレーカと電力メータ:三菱電機、タイマーと専用コンセント:パナソニックのWEBページから

参考文献

参考1)運輸部門における二酸化炭素排出量
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

参考2) 電力中央研究所報告:EV・PHV普通充電設備の設置に関する検討
https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDetail?reportNoUkCode=M09006

参考3)Nissan:EV普通充電用電源回路ガイドライン
https://ev.nissan.co.jp/LEAF/PDF/guideline_charge.pdf

参考4) 経済産業省、国土交通省:電気自動車・プラグインハイブリッド自動車のための 充電設備設置にあたってのガイドブック
http://www.cev-pc.or.jp/hojo/juden_pdf/h29/guidebook2017.pdf

参考5) 社団法人日本配線器具工業会:EV普通充電用電気設備の施工ガイドライン
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001364991.pdf