太陽熱給湯と太陽熱発電

まとめ
◇太陽熱温水器は、太陽からの光エネルギーを熱エネルギーに変換し、効率的に水からお湯を創る省エネ機器です
◇季節変動や日々の天気の変動を考慮すると、太陽熱温水器は単独で使うのは難しく、電気・ガス湯沸器などとの組み合わせた給湯システムが現実的である
◇太陽熱温水器等は、太陽光発電とカルノー逆サイクルを使う電気湯沸器(エコキュート)との組み合わせと比べると、エネルギー効率上の優位性はない
◇集光型太陽熱発電(CSP)システムはシステム効率が30%台と高いが、日本国内には適地がない

 今回は太陽熱の利用がテーマです。太陽からの光エネルギーを熱に変え、水からお湯を沸かし、利用することについて考えてみます。屋根の上の工作物と言えば、以前は太陽熱温水器でしたが、今では太陽電池が主流となっています。今の日本では太陽熱温水器を見つけるのが困難な状況です。しかし、中国、トルコ、インド、ブラジルなどでは太陽熱温水器が急拡大して来ています 資料1)。また、太陽熱を利用した集光型太陽熱発電(CSP)システムについても調査します。  

太陽熱温水器 ビルの屋上(a)と屋根上(b)

熱エネルギーの利用

 一般家庭、ホテル、レストラン、食品工場などは、給湯用のエネルギー需要が大きいと言われています。オール電化の我が家の例では、1月度の全電力消費の30%が給湯に使われていました。したがって、地球温暖化対策では、給湯用のエネルギーの削減も課題となっています。

 太陽熱温水器や太陽熱給湯システム(今後、太陽熱温水器等と記す)は、太陽光を吸収して熱に変えてお湯を沸かし、温水を供給する給湯システムです。太陽熱温水器等はエネルギーの利用率が40-60%と非常に高く、断熱材で覆われたタンク(槽)で簡単に貯蔵もできます。これ等の性質は、太陽光発電と比べて優れた性質です。

 太陽光をミラー(鏡)で集めて、水を沸騰させ、更に、お湯を蒸発させ、蒸気タービンを回して発電する集光型太陽熱発電(CSP)も検討 資料2)されています。太陽光の集め方の違いで、パラボラ・トラフ型、リニア・フレネル型、タワー型などの方式があり、実証試験が行われています。 タワー型のシステム効率は最大で35%と見積もられ、太陽光発電の約2倍となっています。システム効率35%の数値は、熱転換エネルギー効率:60%、最高レベルのタービンの熱効率:61%およびその他の効率:95%とすると、それぞれの数値を掛け合わせて≒.35%と一致します。また、発電コストに関しても、将来5セント/kWh程度まで低下すると予想されています。ただし、年間の直達日射量が2,000kWh/m2・年 以上の得られる地域との条件が付きます。

タワー型太陽熱発電システム(NEDO 資料2)から)


 ヘリオスタット(平面鏡)で太陽の光を反射させて集熱器に導く。集熱器で水を沸騰させて蒸気を発生させる。蒸気をタービンに送り、発電機を回転させ電気を起こす。

太陽熱温水器等の状況

 太陽熱温水器と太陽熱給湯システムの設置の推移 資料3)です。1975年から統計が始まっています。これは太陽電池と比べると30年も早いと思われます。1980年に出荷台数がピークに達し、その後は減少傾向となっています。強引な訪問販売が影響しがたのでしょうか? 私はそれだけではなく、性能の問題も大きいと推定しています。

太陽熱温水器と太陽熱給湯システムの設置の推移
ソーラーシステム振興協会 資料3)から作成

 屋根上に設置する太陽熱温水器の水温をシミュレーションしてみました。太陽熱温水器のデータはコロナ社製のUSH-23Xの仕様 資料4)を使いました。集熱部総面積:3.0m2、保有水量(集熱部含む):230リットルなどとなっています。熱利用率は0.60と仮定しました。東京の日射量にはNEDデータ 資料5)を、水温には東京都水道局のデータ 資料6)を活用しました。湯温の月平均値をシミュレーションした結果を示します。湯温は、夏季には50℃を超えますが、冬季には30℃台と低く、お湯として使えない状況です。

湯温の月次変動(東京)

 次に2月と8月の日々の湯温の変化のシミュレーションをしてみました。湯温は、8月でも天気の悪い日には30度台となります。快晴の日の湯温は70℃近くまで上昇しています。2月では天気の良い日は40℃を超えるが、天気の悪い日は10-20℃の範囲の日が7日もあります。8月の晴天の日でも、湯温と保有水量を考慮すると、一般家庭では不足する可能性があります。

湯温の日時変動(東京)

 以上のシミュレーションの結果、冬、曇り・雨などの気象条件を考えると太陽熱温水器の単独使用は困難であるとの結論になります。太陽熱温水器は水道水の予備加熱器とし、電気温水器またはガス湯沸器と組み合わせた給湯システムを作る必要があります。ただし、湯沸器にエコキュートやガスヒーポンなどのカルノー逆サイクルの高性能機器※を使うと、太陽熱温水器の経済的価値は1/4~1/3に低下します。

※経済効果について
 太陽熱温水器を予熱器としての使用する場合の経済効果は、ジュール熱加器(電気ヒーター)やガス湯沸し器の場合では10年で約40万円と見積もれます。一方、エコキュートやガスヒーポンなどの高エネルギー効率湯沸器を使うと、この金額は性能係数ηの逆数分の1(=1/η)に減少します。つまり、この場合の経済効果は約10万円程度に低下します。エコキュートについては他の記事「電力の効率的な使用方法」もご参考にして頂ければと思います。

太陽熱の利用と電力

 太陽熱温水器等と太陽光発電は、両者とも、太陽光を利用する技術なので競合します。言い換えると、これは、熱と電気の戦いとなります。電気にはカルノー逆サイクルと言うエネルギーを何倍もにするマジックが使えます。太陽光発電のエネルギー利用率が太陽熱温水器等の約1/3と低くとも、電気式の湯沸器:エコキュートを使えばエネルギーを4倍にすることができ、最終的には、太陽熱温水器の1/3x4≒1.3倍のエネルギー利用率とすることが可能です。したがって、エネルギー利用率の点では、太陽熱温水器等を設置するよりは、汎用的に使える電気を創る太陽光発電パネルを設置する方が合理的と言うことになります

 集光型太陽熱発電(CSP)資料2)は太陽光発電システムより効率が2倍高く、優れた技術であると先に述べました。コスト競争力があるのは、直達日射量が2,000kWh/m2・年 以上の得られることが必要条件となっています。日本の直達日射量は必要条件の50-65%程度であり、残念なことに日本には適地がありません

【参考資料】

資料1)RENEWABLES 2019 GLOBAL STATUS REPORT
https://ren21.filecloudonline.com/ui/core/index.html?mode=public#expl-tabl./SHARED/laura.williamson/6EDmrMT8R6yOlDSI

資料2)
https://www.nedo.go.jp/content/100544820.pdf

資料3)
http://ssda.or.jp/energy/result/

資料4)
https://www.corona.co.jp/solar/spec/index.html

資料5)
http://app0.infoc.nedo.go.jp/metpv/monsola.html

資料6)
https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suigen/topic/03/03_kako_h29.html