日本政府の2050年カーボンニュートラル戦略について

政府に先立ち、私は、再生可能エネルギー100%計画やカーボンニュートラル達成に関連する記事 資料5)~8)を書いています。2020年10月26日、菅首相は所信表明で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と述べています。これ以来、経産省を中心に脱炭素化の検討が進んでいると理解しています。政府案について、ここでは電力に焦点を当て、気づき点をコメントしたいと思います。

電力需要と再生可能エネルギーの目標

政府の2050年の電力需要は、産業・運輸・家庭部門の電化によって現状より30~50%増加 参考1)2)するとしている。具体的な数値としては約1.3~1.5兆kWhとなっている。この数値は、日本の電力の需要は過去10年ほどは大きな変化がなく1.05兆kWh(1,050,000GWh)前後で推移しているのでこれを基準として30~50%増しとしている。この数値は妥当であるのだろうか? 日本は、少子高齢化で人口が急激に減少し、2053年には1億人を割ると予想 参考3)されている。人口とエネルギー消費は比例するし、電力消費は年々効率化することなどを考慮すべきだろう。したがって、2050年の電力需要は、産業・運輸・家庭部門の電化による増加と人口減少・効率化の減少でバランスし、現状レベルを維持すると考えて良いのではないか?

再生可能エネルギーの上限については、英国や米国などの諸外国の計画などの例を出し、約50~60%としている。この推計の仕方は余りにも安易と思います。したがって、我が国の再生エネルギーのポテンシャルを十分検討した結果として、再生可能エネルギーの上限値を出して頂きたい。

カーボンニュートラルの達成戦略

国は、カーボンニュートラルの達成戦略 参考1)2)の概要を明らかにした。
①今回、国は洋上風力の導入目標にコミットした。洋上風力発電は、着床式とし、2030年に10GW、2040年に30~45GWの発電量をコミットした。
②水素関連では、火力発電に水素やアンモニアを燃料に混合し、総発電量の10%程度を賄うとしている。水素として、2030年時点でコスト:30円/Nm3、量:最大300万t、2050年時点でコスト:20円/Nm3以下、量:2000万tの数値目標も立てている。
原子力およびCO2回収前提の火力発電(火力+CCS)の合計で、総発電量30~40%程度を賄うとしている。
以上の条件を数値化し下表に示した。

2030年のエネルギーミックスでは、再生可能エネルギーには最小と最大の目標が設定されているが、ここでは最大の数値を引用します。2050年の総電力需要は政府が推定している上下限の中央値(つまり、1.4兆kWh)とした。政府がコミットしている、2030年と2040年の風力発電に関しては、発電容量としての上限の数値を使用した。発電電力量については、発電容量に環境省の稼働率の数値を積算して見積もった。水力、地熱、バイオマスについては、ここでは、2030年のエネルギーミックス数値のままとしている。

水素の利用について、2050年時点で量:2000万tの全てを火力発電に使用すると約355,000GWhの発電電力量が可能となるが、総発電電力量の10%程度を賄うとの記述があるので、140,000GWhとした。残りの約69%の水素は、製鉄、化学工業、商業車などの熱利用に使われるものと推定している。2030年の水素量300万tの発電への利用割合は、2050年度と同じく、39%とした。

下表から全体の44%も占める600,000GWhの再生可能エネルギーの計画が示されていないことが分かります。2030年時点のエネルギーミックスの数値(最大値)と政府のコミットした2040年までの洋上風力を加えても、400,000GWhの計画が見えない状況です。この多くは、風力と太陽光で計画されると推定するが早急に明らかにすべきと考える。また、原子力、火力+CCSは大きな割合を占めるにもか拘らづ、両者が分離されていない。原子力については、稼働しようと言う国民のコンセンサスが無いことに加えて、現有原発の多くは2050年以前に寿命を迎えるが、その具体策が見えていない

注意 CCS:Carbon dioxide Capture and Storageとは、発電などで発生した二酸化炭素(CO2)を回収して貯留すること。

発電方式2030年
発電容量GW
2030年
電力量GWh
+2030年
GW/GWh
+2040年
GW/GWh
2050年
発電容量GW
2050年
電力量GWh
水力  49 97,980 49 97,980
太陽光  64 74,550 
太陽光+風力
 611,315
風力  10 18,105 10
29,770
 45
133,500
 太陽光+風力
 611,315
地熱  1.6 11,715 1.6  11,715
バイオマス  7.3 48,990 7.3  48,990
水素燃料火力21,000 140,000
原子力、火力+CCS 490,000
CO2フリー計1,400,000
政府のカーボンニュートラル戦略

政府案に対するコメント

(1)政府として脱炭素社会と言うなら、国としての戦略や計画であるべき
 エネルギー政策は人口減少を考慮した計画であるべき(対厚生労働省)。国立公園の関係で地熱発電や陸上風力発電の取り組みが従来から消極的に見える(対環境省)。経済産業省がつくる計画は国内の産業政策に基づくが、世界の潮流と外れてないかと心配になる(対経済産業省)。

(2)再生可能エネルギーの上限は国内の再生エネルギーのポテンシャルを積み上げて根拠を出すべき
 諸外国案の例をとり、国内の発電量の約50~60%を上限に再エネで賄うとしているのは説得性に乏しい。

(3)原子力は生き残れるのか疑問
 経済産業省が産業政策として原子力を推進したいのは理解します。日本の再生可能エネルギーでは不十分か?、放射性廃棄物の処理などのコストを考慮すると原発は本当に見合うのか?、国民の生命の危機に陥れることはないか?、国民が原子力を許容するのか?など多数の疑問があります。同時に、3.11以降の国の原子力の取り組みを見て納得する国民は少数派だと推定しています。

(4)グリーン水素は100%を輸入に頼るのではなく、国内生産も必要
 水素のコスト目標20円/Nm3は、発電コストが4円/kWhでも、水素製造以降のコストも考えると非常に困難と推定される。再生可能エネルギーの余剰分を使うしか考えられません。そのためにも再生可能エネルギーを余剰状態にしておく必要があると思います。エネルギーの独立の観点や国民の富の流出の防止を考慮して、一定量の国内生産を検討して頂きたい。

自然エネルギー財団の計画に対するコメント


国内の研究機関や団体からも日本のカーボンニュートラル案が提示されています。ここでは、民間かつ再生可能エネルギーだけで国内の全エネルギー需要を賄う案を出している自然エネルギー財団を取り上げ、コメントさせて頂きます。

自然エネルギー財団から「日本における2050自然エネルギー100%への経路 参考4)(2020年12月18日)」と題する中間報告が提示されています。人口減少や省エネも考慮して、2050年の電力需要は現在と同レベルで、全て電力需要は再生可能エネルギーで賄えると主張しています。この考え方に私も賛同致します。また、国内の再生可能電力でグリーン水素を生産するとしています。この考えにも賛同致します


少し疑問に感じたのは、太陽光発電と風力発電の稼働時間が、それぞれ10%と30%程度、大きすぎる印象を持ちました。過積載が原因? 太陽電池パネルは、固定式でなく、太陽を追尾する方式の採用を検討しているのでしょうか? 風力発電に関しても、風速が小さいあるいは大きいレンジでも無駄にしない新たな仕掛けがあるのでしょうか?

自然エネルギー財団の案は太陽光発電の割合が大きいのが特長です。発電容量524GWの太陽電池の効率を20%とすると、日本の国土の約10%を太陽光パネルで埋め尽くす計算となります。森林(67%)、農地(13%)、道路(3%)など、敷設すべきでない場所、出来ない場所を考えると同財団の計画は多過ぎると推定されます。

自然エネルギー財団の提案は現時点では中間報告ですので、上記のコメントを考慮した最終案が提示されるのを期待しています。

参考資料
1)経済産業省_2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html

2)経済産業省_成長戦略会議(第6回)配布資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai6/

3)国立社会保障・人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29suppl_reportALL.pdf

4)自然エネルギー財団_日本における2050自然エネルギー100%への経路
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/02_YukoNishida_REI.pdf

5)日本としてRE100電力とカーボンニュートラルを達成する計画
https://green-ez1.com/2020/02/20/achievement-plan-of-re100-power-and-carbon-neutral-as-japan/

6)日本のカーボンニュートラル案を創る
https://green-ez1.com/2020/09/18/create-a-japanese-carbon-neutral-plan/

7)二酸化炭素CO2フリー水素
https://green-ez1.com/2020/10/28/co2-free-hydrogen/

8)グリーン水素(Green Hydrogen)に未来はあるか?
https://green-ez1.com/2019/10/17/future-for-green-hydrogen/