日本の風力発電の状況と遅れた理由について
まとめ
◇日本の風力発電の導入可能量は、陸上で137GWおよび洋上で141GWの合計278GWと推定されているが、導入実績は3.7GW(2019年3月時点)に留まる
◇日本が風力発電で出遅れたのは、導入に必要な環境が十分に整っていないのが主な原因と考える。エネルギーミックスに於ける風力発電の容量の大幅な拡大から始める必要がある
◇海外では風力発電は再生可能エネルギー(REエナジー)の主流となっている。風力は太陽光発電と比べて設備稼働率が高い利点があるので強力に推進するべきと考える
今回は風力発電を取り上げます。資源エネルギー庁によると、日本の再生可能エネルギー(REエナジー)の設備導入量は、2019年3月時点で、太陽光:50.2GW(10kW以上の非住宅に限ると39.7GW)と風力:3.7GWとなっています 参考1)。風力発電の導入量は太陽光発電の1/10以下です。世界では広く普及している風力発電ですが、なぜか日本では太陽電池の導入に比べて大幅に遅れています。何故でしょか? その理由を考えてみます。
風力発電とは
風力発電では、ブレードと呼ぶプロペラ状の羽が風の圧力を受け、回転します。その回転動力を発電機に伝えて発電 参考2)します。空気の運動エネルギーは速度の2乗に比例し、(単位時間に通過する)空気の量は速度に比例することから、風力の発電量は風速の3乗に比例します。経済性の点から、風況の良い場所の選定が必要で、その目安は年間平均風速 7m/s 以上 参考3)とのことです。平均風速が5.5m/sと7.0m/sを比べると、発電量は2倍も違ってきます。設備利用率に関しては、太陽光発電:13~14%に比べて、風力発電:20~30%は約1.5~2倍と高い。したがって、同じ設備容量の風力発電と太陽光発電を比べると、風力の方が一年間では約1.5~2倍の発電をします。
※設備利用率とは、1年間の実際の発電量(kWh)÷[設備容量(kW)x365日x24時間/日]で計算します。100%稼働の設備に対し、1年を通した実際の発電量が何%に相当するかを示しています。
風力発電所は、陸上に設置する風力発電所の他に海に設置する洋上風力発電所がある。後者は更に、水深50m以下の浅瀬に設置する着床式風力発電所と200m以内の深さの近海に設置する浮体式洋上風力発電所に区別される。浮体式洋上風力発電は将来の期待が大きいものの、現時点ではコストが最大の課題となっています。
風車に関しては、高度が高い程、強い風が吹き、風況も良いので好ましい。また、ブレードも大きい方が効率が良く、大きなものでは直径が80mを超えるものもある。
日本の風力発電のポテンシャル
日本の局所風況マップデータ(100mメッシュの平均風速、地上高30m、50m及び70m)はNEDOから提供されています 資料4)。コストなどを考慮して風力発電がどの程度導入可能も検討されています 参考5)。先に述べたように風力発電の年間平均風速の目安は7m/s 以上であるが、この検討資料では、陸上で5.5m/s以上、洋上で6.5m/s以上まで範囲を拡大している。
日本の陸上風力発電の導入ポテンシャルは計282GWで、北海道と東北地域に集中し、九州地域にも少しある。一方、洋上風力の導入ポテンシャルは計1,572GWと陸上の約5倍の大きさで、北海道、東北、本州の太平洋側、中部、九州、沖縄地域に点在している。固定価格買取制度想定 参考8)のシナリオ1-1から1-3迄では、洋上風力の導入可能量はほとんどないことから、コスト削減が最大の課題となっていることがわかる。洋上風力は発電設備費と土木工事費の大幅な低減が必須である。また、電力の消費地と発電適地が遠く離れている課題の解決も必要である。結論としては、日本国内で風力発電の導入可能量は陸上の137GW(現状の固定価格買取制度を考慮 参考11))と洋上の141GWで、合計278GWであると推定される。
追伸 風力発電の導入可能量の差異について
参考3)によると、導入可な陸上風力は経済産業省:110GW/環境省:140GWとなっている。洋上の方は、経済産業省:66GW/環境省:3GWである。省間および参考資料間の数値の差異は平均風速、コスト条件などの設定条件の違いによって生じている。洋上の導入可量に関しては、参考5)では将来の大幅なコスト低下を見込んでいるが参考3)では考慮されていない。⇒何れにしても、風力発電の導入可能量は太陽光発電の数値を上回ることがポイントと考える。
導入ポテンシャル | シナリオ1-1 | シナリオ1-2 | シナリオ1-3 | シナリオ2 | |
陸上風力 | 282 | 24 | 101 | 137 | 273 |
洋上風力 | 1,572 | 0 | 0 | 3 | 141 |
合計 | 1,854 | 24 | 101 | 140 | 414 |
備考 | 風速条件: 陸上 5.5m/s 洋上 6.5m/s | 単価15円/kWh 買取期間15年間 | 単価20円/kWh 買取期間15年間 | 単価20円/kWh 買取期間20年間 | 発電設備費50%削減 土木工事費20%削減 単価20円/kWh 買取期間15年間 |
日本の風力発電の導入状況
太陽電池の普及の度合いと比較してみました。太陽光発電の導入可能量は72GW 参考10)であり、2019年6月時点の導入実績は39.7GW 参考9)(対導入可能量の55%)となっています。固定価格買取制度の新規認定分は太陽光:65GW 参考9)となっている。一方、前述の様に風力発電の導入可能量は陸上で137GWであり、太陽光発電より大きいにも拘わらず、導入実績は3.7GW(対導入可能量の3%)に留まる。更に、今後の導入を予想する上で参考になる風力発電の新規認定分も7.3GW 参考9)と太陽光発電と比べると一桁小さいままである。以上から、日本の風力の導入可能量は大きいが、導入のスピードが過去も、これからも当面遅いと予想される。
注意:ここでは洋上風力発電の導入可能量は除いている。日本はヨーロッパと違い日本には風力発電に適した浅瀬が少ないことおよび浮体式洋上風力のコスト問題が現時点では解決していないからである。
日本の風力発電の課題 参考7)が論じられている。また、洋上の風力発電を拡大するための提案 参考6)、参考12)、参考13)もされている。
日本の風力発電の導入が遅れた理由についての私見を述べたい。将来のエネルギー計画に相当するエネルギーミックス(2030年度)参考14)で太陽光が64GWあるのに対して風力は10GWと圧倒的に少ない。風力発電は地元との調整や環境アセスメン トのほか立地のための各種規制等への対応が必要で、導入に時間がかかる。また、数kWから数十MWまで自由に規模を変えられる太陽光発電に比べると風力発電は発電所の平均容量が10MWを超え、1件当たりの投資額が数十億円となる。つまり、風力発電に関わる利害関係者の調整や環境の整備などに関する国などの総合的な指導力が不足していた、更に付け加えると、フットワークの良い小規模の企業などでは対応が難しい案件であったと推定される。風力発電に関しては、今後、大きな目標を掲げ、導入を加速して、日本の再生可能エネルギー(REエネルギー)比率を高めることを願う。それにはエネルギーミックス(2030年度)の見直しから始める必要があろう。
参考2)
https://www.sbenergy.jp/study/illust/wind/
参考3)
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf
参考4)
http://app8.infoc.nedo.go.jp/nedo/index.html
参考5)
http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt4.pdf
参考6)
http://jwpa.jp/pdf/2014-06dounyuumokuhyou.pdf
参考7)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2018pdf/20181203063.pdf
参考8)
https://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190322007/20190322007.html
参考9)
https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfoSummary
参考10)
https://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt3.pdf
参考11)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html
参考12)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yojohuryokuhatuden.html
参考13)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/wp-content/uploads/2019/01/20181206-1-doc.pdf
参考14)
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/046_01_00.pdf