小さな植物プランクトンの地球環境への大きな貢献
まとめ
◇海洋上の植物プランクトンは、毎年、陸上の樹木などとほぼ同量の炭素を固定している。また、酸素O2の供給量は全体の約2/3を担う
◇植物プランクトンはバイオ燃料の原料にもなるし、人間の食料やサプリメントにもなる
◇海洋上の植物プランクトンの観測には衛星からのセンシング技術が活用されている
今回の話題は植物プランクトンです。サブμmから数百μmの小さな植物プランクトンですが大きな役目を果たしています。海洋上の植物プランクトンは、森林と同様に、地球環境の維持には欠かせない存在です。
植物プランクトンとは
プランクトンとは、 本来の意味は水中を浮遊していると言うことで、運動能力が小さく、水中に浮かんでいる生物を言う 資料4)。 さらに、光合成能力の有無によって、植物プランクトン(または、植物性プランクトン)と動物プランクトンに分けられる。植物プランクトンと言っても、ミドリムシのように鞭毛で動き回るものもいる。したがて、運動能力によって、植物プランクトンと動物プランクトンとに分ている訳ではない。
植物プランクトンは光合成により、二酸化炭素CO2と水から糖(グルコース)を合成するのと同時に酸素を放出する。化学式では次の式の左から右への反応が進む。光合成と言うのは、太陽光の助けを借りてこの化学反応が起こるからです。植物プランクトンの光合成を行う部分は葉緑体であり、一般には緑色をしている。
光合成の化学式
6CO2 + 6H2O ⇄ C6H12O6 + 6O2
リモートセンシング
植物プランクトンの地球規模の観測には近年は衛星が使われている。衛星に搭載したセンサーで植物プランクトンに含まれる光合成色素であるクロロフィルa(葉緑素)の濃度を測定している。JAXAが打ち上げた気候変動観測衛星「しきさい」は沿岸250mの空間分解能、かつ1000㎞以上の観測幅(全球を約2日間で観測)が可能で、海洋生態系の変動を観測している 資料3)。
海洋の植物プランクトンの役割
海洋に於いては、200 mより浅い表層で大量に増殖した植物プランクトンの一部は、動物プランクトンに食べられたり、バクテリ ア等により分解され、二酸化炭素CO2に戻る。 しかし、残りの植物プランクトンは、分解されずに中深層に運ばれ有機炭素として何千年も海底で貯蔵される 資料2)。
海洋の植物プランクトンの炭素固定量は、約 24億トン炭素/年と見積もられてお り、陸上の炭素固定量約 23億トン炭素/年とほぼ同等と推定されている。 また、海洋の炭素固定量の約 93%は植物プランクトンが担っており、残りの約 7%がワカメやコンブなどの大型藻類や海草類によるものと推定されている 資料2他)。
注意: 2020年/1月/08日 炭素固定量の数値を修正:純生産量から固定量へ変更
「日本のブルーカーボン」の記事の数値と差異があるがそのまま使用
小さな植物プランクトンが大半の炭素を固定しているがポイント
陸上の植物炭素量は海のそれの4百~千倍あるが、年当たりの炭素固定量は海と陸でほぼ等しい。このことは、植物プランクトンの炭素固定の速度が陸上の植物より数百から千倍早いことを示している 資料1)。
植物プランクトンをバイオ燃料として活用
植物プランクトンをバイオ燃料として使おうと研究がされています。NEDO 資料10)ではバイオ燃料を3段階に区分しています。第1世代と第2世代バイオ燃料は、穀類あるいはセルロースなどの原料を発酵技術(醸造)によりエタノール(お酒の成分で燃料に利用できる)を作り出します。一方、次世代バイオ燃料は化学合成法により作られますが、微細藻類(植物プランクトン)も原料の候補となっています。植物プランクトンの油脂分を油として取り出して、種々の工程を経て、最終的には炭化水素燃料とします。植物プランクトンを利用するメリットは単位面積当 たりの生産量が他の油脂生産植物(大豆等)よ り桁違いに高いからです。
ICAO(国際民間航空機関)が、2009年に、2050年時点で航空業界の二酸化炭素排出量の半減化を目標として掲げたことがバイオ燃料の追い風となっています。価格の高い次世代バイオ燃料は、従来の石油由来のジェット燃料の代替燃料として期待されています。次世代バイオ燃料はSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)と呼ばれ、航空機に使われ始めています。国内では、ユーグレナがバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント 資料11)を横浜市で稼働させています。
[NEDOのバイオ燃料技術の分類]
第1世代バイオ燃料 (可食部由来バイオエタノール/ディーゼル)
第2世代バイオ燃料 (セルロース系バイオエタ ノール等)
次世代バイオ燃料 (炭化水素系バイオ燃料)
植物プランクトンを食料として活用
植物プランクトンは食料にもなります。良く知られたクロレラ、スピルリナ、ユーグレナなどがあります。何れも、野菜の栄養素や良質の蛋白質を多く含むので健康食品/サプリメントとしも利用されています。
◆塩水で培養する「スピルリナ」
水前寺海苔などと同じ藍藻類の一種で、主にアフリカや中南米などの亜熱帯地方の高アルカリの塩水湖に繁殖する。「スピルリナ」の名前は、らせん状の形状のラテン語に由来しています 資料5) 資料6)資料7)。
◆淡水で培養する「クロレラ」
クロレラ属の淡水性単細胞緑藻類の総称を示しています。「クロレラ」は、ギリシャ語のchloros(クロロス/緑)とラテン語のella(エラ/小さいもの)からの合成語で、発見した微生物学者マルティヌス・ベイエリンクが命名した。 資料8)
◆淡水で培養する「ユーグレナ」
ユーグレナは、ミドリムシに代表される鞭毛を持ち、移動することができる植物と動物の両方の性質の微細藻類のことを言う。 資料9)。
資料3)
http://www.jaxa.jp/press/2018/12/20181220_shikisai_j.html
資料4)
https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/bikaseki/3-plankton.html
資料5)
http://www.dlt-spl.co.jp/business/spirulina/company.html
資料6)
http://www.sp100.co.jp/spirulina/index.html
資料7)
https://toyokk.co.jp/company.html
資料8)
https://ja.wikipedia.org/wiki/クロレラ
資料9)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ユーグレナ藻
資料10)
https://www.nedo.go.jp/content/100870191.pdf#search=%27Biofuels+ISOCONVERSION+Process%27