日本の再生可能エネルギーのコストはなぜ高い

まとめ
◇発電コスト(kWh単価)は、主に発電所の設備投資額、維持運営費および設備利用率で決まる
◇設備利用率は自然環境に大きく依存する。日本は、再エネの最適地である南欧の日射量や欧州の北海地区の風況と比べると不利となる
◇低コスト化のためには、主要設備費、設置費、維持運用費を国際標準レベルに引き下げる必要がある。風力に関しては、設備利用率を改善する設計を採用することとも同時に必要と考える

はじめに

日本の再生可能エネルギーの普及の速度は先進的な他国と比べて遅いと感じます。その主要な1要因として発電コストが非常に高い問題があると推定されます。

再生可能エネルギーのコストは、設備投資額運転維持費設備利用率、統合費用、送変電費用、税金などで決まります。今回は、発電部門に焦点を絞り、設備投資額、運転維持費および設備利用率に特に注目します。経済産業省資源エネルギー庁の調査報告書 資料1)「再生可能エネルギーに関する海外コスト調査分析事業」(平成30 年3 月)を参照しながら検討します。

設備投資額を、1年当たりの費用、つまり、設備投資総額÷運転期間(年)に換算します。これに、毎年の運転維持費を加えると発電所のコスト総額となります。設備利用率(%)は、発電容量の何パーセントが平均的に使われているかを示す指標で、年間の発電量÷(発電設備容量×365日×24時間)×100で計算されます。したがって、1年間に発電する電気量(kWh)は発電設備容量(kW)x設備利用率(%)x365日/年x24時間/日÷100で逆算できます。kWh当たりの発電原価は、年間の発電所のコスト総額÷年間の発電量から計算できます。これに、更に、発電所の利益や変動する自然エネルギーを使いこなすための統合コストやユーザー先に電気を届ける送配電コストなどが上乗せされ消費者の電気料金となっています。

太陽光発電のコスト

売電用(非住宅用)の太陽光発電のLCOE††評価の下表を見ると、設備利用率がスペインやインドネシアで高いことに気づきます。これは、過積載率†の違いが少ないとすると、主に日射量に起因してます。日本の年間の日射量 資料2)は約1,200kWh/kWpであるのに対して、スペイン南部:約1,700、インドネシア:約1,400となっています。ドイツの日射量は、南部が日本と同一レベルで、中部から北部では日本よりやや低い数値となっています。水平面に対する日射量は緯度と気象条件に依存します。気象条件に関しては、降雨量、降雪量および曇りの時間が少ない場所の方が日射量は大きくなります日本とスペイン南部を比べると、日射量の多いスペインの方が同じ発電設備でも40%程度多くの電気が得られます

設備の運転期間も国によって違っています。日本やインドネシアが20年に対してヨーロッパの国では25年となっています。発電所のコストは運転期間に逆比例すると考えられるので、運転期間25年の国と比べると20年の国では発電コストが25%高くなる計算です。

発電所の投資額や運転維持費の項目に注目すると、日本は他国に比べて両者とも高いことが分かります。

非住宅用PVのLCOE評価 資料1)

発電所の投資額の内訳を下図に示しています。日本は、ソーラーモジュール、インバータ、設置費など、どの項目も高いようです。ソーラーモジュールやインバータはほとんどが輸入品と思われますので、安く買う能力が問われます。また、日本は、今や、先進国中で人件費が一番安いレベルにも拘らず、設置費用(建設費)が高いのも解せません。

発電所の投資額や運転維持費を他国並みに抑えて、かつ、運転年数を20年から25年に延長すれば、ドイツや英国などと同レベルのkWhコストが得られる筈です。

非住宅用PVの初期投資費用 資料1)のデータから作成

過積載†:設備利用率の改善のために、パワコンの能力を超える、多くの太陽電池パネルを積載(設置)すること。
LCOE††:均等化発電原価(Levelized Cost of Electricity (Energy))のことで、発電にかかるコストを比較評価する際の指標。発電所の建設に要する初期費用と運転維持にかかる費用に加えて設備の廃棄にかかる費用の総額を、その発電所で、発電した生涯の総電力量で除した数値で示す。

風力発電のコスト

日本の風力発電のコストが高いのは、初期投資と運転維持費が高い上に、設備利用率が低いと言うダブルパンチになっているからです。国内の風力発電市場がまだ小さいと言う規模の経済要因に加えて、日本の洋上風力発電の適地はヨーロッパの様な沿岸の浅瀬より深い場所に存在する、台風や地震に備えた強固な構造が必要などの技術要因 資料4)も挙げられます。

風力発電の設備利用率については、風況に依存するところが大きいからです。風力発電の発電量は、風車の直径:Lmの2乗(L2)に比例し、平均風速:Vm/sの3乗(V3に比例します。したがって、平均風速が大きくかつ年間を通して変動が少ない場所が風力発電の適地となります。一般には、陸地より海上の方が風速が速く、安定的に風が吹くので風況は良いと言われています。

東大 本部和彦氏他 資料5)「風況の違いによる日本と欧州の洋上風力発電経済性の比較」によると、欧州北海海域の年平均風速が10m/secに対して、北海道、東北の日本海側の洋上立地では7.7m/secと低い。その結果、(同等設備の比較では)年間設備利用率は欧州:54.6%に対して、日本:35.4%と試算している。

環境省 資料3)による「風力発電の賦存量および導入ポテンシャル」によると洋上風力のシナリオ2で合計の発電容量141GW、内訳は、平均風速7.5m-8.5m/s:80GW8.5m/s以上:60GWとなっている。平均風速の早い地区を選べば、東大のシュミレーションの設備利用率の数値よりは良くなることが期待される。ついでに、陸上風力のデータも示しておくと、シナリオ1-3で合計の発電容量137GW、平均風速の内訳は、6.5-7.5m/s:95GW、7.5m/s以上:48GWとなっている。2017年の実績値25%のように利用率は東大試算より更に低くなる見込みです。

低炭素社会戦略センターのレポート 資料6)「大規模導入を想定した将来の日本型風力発電システムの経済性評価及び技術開発課題」に勇気づけられました。風速が7m/s台でも設備利用率50%が達成でそうですポイントはロータ径を大きくする一方、発電機の定格出力を下げることにあるようです。太陽光発電で一般になっている過積載と同様な手法と理解されます。発電コストは、洋上風力発電の着床式で12.0円/kWh、浮体式で13.6円/kWhと試算されていますが、更なる低減が必要と考えます。

洋上風力のデータが不十分なため、ここでは、参考のために陸上風力のコストデータ(LCOEや設備費)を示しておきます。日本では、太陽光発電と同様に、初期投資額が大きく、かつ、運転維持費も高い。これでは、安価な風力発電の電力を得ることは出来ないのは当然です。主要設備費、設置費、維持運用費を国際標準レベルに引き下げる必要があります日本での本命の沖合の風力発電の本格的な普及は、世界的に見ても、これからなので更なるコストの低減に期待します。

陸上風力のLCOE評価 資料1)


陸上風力の初期投資費用 資料1)のデータから作成

参考資料

資料1)経済産業省「再生可能エネルギーに関する海外コスト調査分析事業」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/300691.pdf

資料2)海外の日射量のデータ入手先
https://solargis.com/maps-and-gis-data/download/japan

資料3)環境省「風力発電の賦存量および導入ポテンシャル」
http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt4.pdf

資料4)洋上風力発電に関する世界の状況、技術の進展、日本の課題、長崎の取り組み(2)
http://sensait.jp/11739/

資料5)東大「風況の違いによる日本と欧州の洋上風力発電経済性の比較」
http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2016/09/5b1373f98100f6b52cfb560cb645ba54.pdf

資料6)低炭素社会戦略センター「大規模導入を想定した将来の日本型風力発電システムの経済性評価及び技術開発課題」
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2019-pp-20.pdf