日本のブルーカーボン
まとめ
◇海藻や海草などは樹木と同じく光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収して、一部は最終的に海底に堆積する。こうして蓄えられた炭素をブルーカーボンと言う
◇海洋は産業活動などによって排出された二酸化炭素の約30%を吸収している。人為的に制御が可能と考えられる海藻や海草などはその内の1-2割と推定されている
◇日本の「排他的経済水域」での二酸化炭素の吸収量は日本の二酸化炭素(CO2)排出量の約9%にもなる
森林に蓄えられる炭素をグリーンカーボンと言うが、これと区別するため、海洋に蓄えられる炭素はブルーカーボンと呼ばれている。海洋は排出された二酸化炭素の約30%を吸収していると推定されていて、地球温暖化に対して重要な役割を担っている。
太陽光発電および風力発電の資源小国の日本
日本は水資源を除くと再生可能エネルギー資源には恵まれていません。太陽光発電に関しては、日射量がそもそも少ない上に人口密度が高いので太陽電池を設置できるスペースが少ない。日本の海岸はヨーロッパのような遠浅が少なく海岸線から離れると急に深くなっている、また安定した風が得られる地域も少なく海岸線での風力資源は限られる。その結果、日本の風力発電の適地は、大都市から離れた東北の北部から北海道にかけての地域に限定される。
一方、日本の海岸線延長は約3.5万kmおよび領海・排他的経済水域の面積は約447万km2 資料1)と、何れも世界第6位です。この資源を地球温暖化防止に活かさない手はないと思います。
ブルーカーボンとは
海洋が炭素を蓄えるメカニズムは大きく2つある:植物プランクトン、海藻/海草などが光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収し有機炭素として、あるいは、海水が二酸化炭素CO2を直接吸収して蓄える場合である。
2009年に発表された国連環境計画報告書による「ブルーカーボン=Blue Carbon」の定義は、海洋で生息する生物によって吸収・固定される炭素としている。海洋の炭素吸収量の10~20%は、海洋生物の海底堆積物として主に浅海域で固定されると推定さられている 資料2)。アマモなどの海洋植物も地上の樹木などと同様に二酸化炭素CO2を吸収して光合成をして成長する。この海洋植物の一部が長い年月をかけて浅海域や海底に堆積・保存される(これを貯留と言う)。
海草と海藻の違い
「海草(うみくさ)」は、海に生える草のことで、根、茎、葉を持ち、海底に根を張って花が咲き、種子で増える。日本にはアマモなど18種の海草があるとのこと。一方、「海藻」は種子ではなく胞子で増える。 根、茎、葉の区別は無く、岩などに付着するための根のようなものがある。日本には1,500種を超 える海藻 資料3)があり、アオサ、ワカメなどを含む。
日本のブルーカーボン戦略
ブルーカーボンの研究は日本国内でも精力的 資料4)に行われている。日本の二酸化炭素CO2の削減計画は、再生可能エネルギー(REエネルギー)などの導入に伴う化石燃料の使用量の削減と森林などの二酸化炭素CO2の吸収からなっている。二酸化炭素CO2の吸収源として森林、都市緑化等および農地土壌炭素の3つが定められており、それぞれ表に示した目標値がある。これにブルーカーボンを加えることが検討 資料5)されている。ブルーカーボンは、はじめて試算されたとのことで、数値の幅が広くなっている。ブルーカーボンの内訳は 資料6)に示されている。試算の値が最小ではインパクトが小さいが、最大の場合はかなりのインパクトがあるものと推定される。今後のブルーカーボン研究者の研究成果に期待するのと同時に有効な施策がとられることを願う。
追記:ブルーカーボンとしては、人為的に制御が可能と考えられる海草藻場、海藻藻場、マングローブ林および干潟が項目として挙げられている。 一方、制御が難しい植物プランクトンは対象になっていない。
出典:2019.4.17 農水省地球環境小委員会合同会議 資料5)より表を作成
日本の「排他的経済水域」での二酸化炭素の吸収量を試算してみた。世界の海洋が吸収する二酸化炭素CO2の総量に日本の領海・排他的経済水域の比率を掛け合わせて計算した。日本の海洋の二酸化炭素CO2吸収量は約1億トンCO2/年で日本の総排出量の約9%と膨大な推定結果となった。ただし、各国の海洋の二酸化炭素CO2吸収量の貢献はパリ協定などでは考慮されていない。この点は再生可能エネルギー(REエネルギー)の資源小国の日本には不利な協定だと思います。
◇日本の海洋が吸収する二酸化炭素CO2量の見積もり
2000~2009年の世界の海洋の吸収量の平均値: 23億トン炭素/年
23x海洋面積比(447/36282.2)x二酸化炭素換算((12+16x2)/12)
=1.04億トンCO2/年
2017年度の日本の二酸化炭素排出量: 11.902億トンCO2 資料7)
⇒1.04/11.9=8.7%
参考資料
資料1)
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/ryokai_setsuzoku.html
資料2)
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/mar_env/knowledge/global_co2_flux/carbon_cycle.html
資料3)
https://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/news/fnews41.pdf
資料4-1)
https://www.pari.go.jp/unit/ekanky/member/kuwae/bluecarbon_co2sink.html
資料4-2)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/pr/pamph/pdf/21-25mobahigatahyouka.pdf#search=%27%E6%B5%B7%E8%97%BB+%E6%B5%B7%E8%8D%89+%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0%27
資料4-3)
https://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/news/fnews41.pdf#search=%27%E6%B5%B7%E8%97%BB+%E6%B5%B7%E8%8D%89+%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0%27
資料4-4)http://www.npec.or.jp/publicity/pdf/187002_Web.pdf#search=%27%E6%B5%B7%E8%97%BB+%E6%B5%B7%E8%8D%89+%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0%27
資料4-5)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2019/20190312.html
資料5)
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/attach/pdf/27-13.pdf#search=%27%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%B3%E7%A0%94%E7%A9%B6%E4%BC%9A%27
資料6)
http://www.wave.or.jp/bluecarbon/bluecarbon_about.pdf#search=%27%E6%B5%B7%E8%97%BB+%E6%B5%B7%E8%8D%89+%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0%27
資料7)
https://www.jccca.org/chart/chart04_01.html