家庭用蓄電システムの活用
まとめ
◇家庭用蓄電システムの導入の主な目的は、「再生可能電力で自給自足」、「出来るだけ自前の再生可能電力で生活する」および「非常時に備える」などと推定される。
◇何れの目的でも、割り切りが必要である。そうでないと投資額が大きくなり過ぎ、コスト的に合わない。
◇エコの観点からは、自家消費、売電の何れを選択しても違いはほぼなく、温室効果ガス(GHG)の削減に貢献できる。
はじめに
再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まった2009年11月から今年は10年目に当たります。住宅用太陽光発電設備(10kW未満)の固定価格買取契約の期間は10年です。したがい、今年から、住宅用太陽光発電設備は順次契約満了となって来ます。契約期間が満了となった太陽光発電設備のオーナーは電力会社等と新たな契約を結び売電するか、自家消費に回すかの選択を迫られます。効率よく自家消費するためには蓄電システムが必要となってきます。今回のテーマは家庭用の蓄電システムの活用です。
家庭用蓄電デバイス/電気を貯める装置
電気を貯めたり、取り出したり出来る蓄電デバイスとしては、鉛蓄電池 資料1)、リチウムイオン電池 資料2)およびキャパシタ― 資料3)の3種類があります。鉛蓄電池は自動車のバッテリーとして従来から使われています。リチウムイオン電池は2019年のノーベル化学賞の対象となり、吉野彰氏※ほか2名が受賞しました。現在では、リチウムイオン電池はスマホに代表されるあらゆる家電製品やハイブリッド車などの自動車に使われています。キャパシタ―も長い歴史がありますが一般には馴染みが少ないかと思います。私のソーラー腕時計にはキャパシタ―が使われています。
※吉野氏のリチウムイオン電池の講演を私も聴いたことがあり、今回の受賞をうれしく思います。多大な貢献があったソニーの関係者が受賞しなかったのは少し残念です。
各蓄電デバイスにはそれぞれ異なる特徴がありますが、1kWhを超える大容量の家庭用蓄電デバイスには、リチウムイオン電池が使われています。調べた結果、蓄電デバイスのメーカー6社の内、6社がリチウムイオン電池を採用していました。体積エネルギー密度と重量エネルギー密度が大きく、同じ容量なら小さくかつ軽量に出来る、また、自己放電率も少なく長時間電気を蓄えられるなどの特長からリチウムイオン電池が選ばれています。充電/放電サイクル回数も10,000回を超えるリチウムイオン電池が提供されています。
リチウムイオン電池のパックの種類は、金属缶の角形と円筒形およびラミネート形(C)の3種類あります
固定価格買取終了/FIT卒業の後の対応は?
資源エネルギー庁 資料4)によると、2019年に固定価格買取終了(FIT卒業)する住宅用太陽光発電の数は53万件で発電容量200万kW(2GW)とのことです。このFIT卒業オーナーが自家消費あるいは余剰電力の自由売買へ移行します。電力会社からの電気の購入コストは約26円/kWhであり、余剰電力の自由市場価格は8-9円/kWhとかなりの差があります。したがって、出来るだけ自家消費する方がメリットが大きく見えます。
太陽光発電は晴れた昼間に発電し、夜は発電出来ません。昼間が留守がちの一般家庭では、夕方から電力の需要は大きくなります。このため、昼間に創エネし、余った電力を蓄電デバイスに蓄え、夜に、蓄えた電力を使うことを考えます。このような用途の蓄電システムの価値は幾らでしょうか? 電力会社からの買電価格と余剰電力の自由市場価格の差は26-8=18円/kWhです。蓄電デバイスの保証期間は10年あるいは15年です。理想的な場合の試算をしてみます。電力単価差18円/kWhx電池のサイクル効率0.9x365回/年x機器寿命15年=88,695円となります。この結果、蓄電システムの価値は1kWh当たり、約9万円となります。ここで、蓄電システムとしたのは、電池からなる蓄電デバイス、直流と交流の変換器、電池への充放電を制御する機器などすべてを含むからです。試算の結果から、1kWh当たりの蓄電システム価格が9万円を超えると投資金の回収は難しいと思われます。
蓄電システム導入の目的
蓄電システムは、内部の蓄電デバイスと、太陽光発電、家庭内の配電系統、電力会社との系統の間の電力のやり取りを制御するシステムです。太陽光発電が余剰となった場合は、余剰電力を蓄電デバイスに蓄えたりあるいは電力系統に送出して売電します。太陽光発電からの供給電力がない場合や不足する場合は、蓄電デバイスから蓄えた電力を送出して使うなどをプログラムにしたがって自動的に動作します。GSユアサの蓄電システムのアニメーション 資料5)が分かり易いと思いますのでご参考にして下さい。
そもそも、蓄電システムの導入の意義は何でしょうか? ①電力の自給自足を目指す、②創エネした電力は出来るだけ自家消費する、③非常時の電力を確保する3つがあると考えます。
太陽光発電と蓄電デバイスを組み合わせると再生可能エネルギー100%の①電力の自給自足が可能となります。これは素晴らしいことと思います。ただ、電力会社からの電力供給を完全に絶つと、安定的な電力の確保は非常に困難で、決断には勇気が要ります。安定な電力確保を追求するほど、発電量や蓄電デバイスの容量が大きくなりコストが膨大になります。
②については、既に(上記)蓄電システムの価値を試算しました。現状、コスト的には非常に厳しい状況で、蓄電システムメーカーの今後のコスト低減に期待したい。したがって、蓄電システムの導入をしないで、太陽光発電が創エネしているときに出来るだけ自家消費し、それでも余った分は安価でも電力会社などに売るのも選択肢となります。この場合でも温室効果ガス(GHG)の削減の観点からは大きな貢献をしているとこになります。
③は非常時の電力の確保を優先する場合です。お金に糸目をつけずに素晴らしいシステムも設置しても、最近の災害では、被災した後、発電システムや蓄電システムが稼働できるか心配になるケース(強風、水害)が多発しています。したがって、非常時の電源確保を優先する場合は、スマホなどの充電、医療機器電源の確保など最小限の必須アイテムに限り、その上に必要な日数も最小限として考えるのもありと思います。私は、一般にはキャンプ用の家庭用蓄電池で容量0.1kWhもあれば十分だと考えます。また、電気自動車やハイブリッド車も非常用の電源として活用できます。
※蓄電システムには②と③の機能が備わっているものもあり、モード切替などで対応できる。
参考資料
資料1)
http://www.baj.or.jp/car_battery/car02.html
資料2)
http://www.baj.or.jp/knowledge/structure.html
資料3)
https://www.chemi-con.co.jp/tech_topics/top_edlc_01.html
資料4)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/008_03_00.pdf#search=%27FIT%E5%8D%92%E6%A5%AD%27
資料5)
https://ps.gs-yuasa.com/products/sl/sikumi3.php