集合住宅向けのZEH-Mと固体酸化物型燃料電池SOFCの登場
まとめ
◇都市部向け集合住宅の省エネ化の核になるZEH-M(ゼッチマンション)計画が本格的に動き出した。断熱性能と省エネ性能の向上が基本である
◇エネファームtype S(ガス燃料の固体酸化物型燃料電池SOFC)、蓄電池、太陽光発電などの導入で、集合住宅の二酸化炭素CO2排出量およびランニング・コストの削減効果が期待できる。また、防災の面で役立たせることもできる
◇現在時点では、設備コストが最大の課題で、普及に伴う価格低下に期待したい
今回は集合住宅のZEH-M(ゼッチ・マンション)がテーマです。エネファームtype Sと呼ばれている都市ガスとLPガスに対応した、家庭用燃料電池FCの登場で状況が一変しています。type S燃料電池は、従来の固体高分子型燃料電池PEFCではなく、業務用に使われていたSO(固体酸化物型)FC(燃料電池)です。燃料電池は、通常の電池とは異なり電気を貯める機能は無く、都市ガスなどを燃料として電力を供給する発電システムです。熱効率が大幅に改善され、二酸化炭素CO2の排出量も大幅に削減できると期待されています。
ZEH-Mとは
ZEH-M(ゼッチ・マンション)は戸建て住宅のZEH(ゼッチ)の集合住宅版になります。ZEHとコンセプトは同じで、住宅の窓や壁の断熱性能の改善とLED化、エアコンなどの省エネ機器の採用のもとに、再生可能エネルギーである太陽電池などの創エネを加えて、家庭で使う化石燃料由来のエネルギーを可能な限りゼロにする。これにより温室効果ガス(GHG)である二酸化炭素CO2を削減する。ZEH-Mは、基準のエネルギーカット率が、①75%を超える:Nearly ZEH-M、②50%を超える:ZEH-M Readyおよび③20%を超える:ZEH-M Orientedと3つのランクに分けられている。
家庭の省エネの鍵は、風呂や水道用の給湯や暖房用に多くの温水を使うことです。そこで、燃料から電力と熱を生産し、供給するコージェネレーションシステムに、燃料電池が採用されました。燃料電池も発電時に(発電に寄与しない)熱エネルギーを大量に放出します。このエネルギーでお湯を沸かして、給湯などに使うことで無駄に捨てるエネルギーを削減します。エネファームtype Sの固体酸化物型燃料電池SOFCの効率は、発電機で52%、総合的な熱効率では90%となっています。つまり、燃料ガスの熱エネルギーの52%が電気となり、残り48%の内、38%を温水に変え、最後に残る10%だけが排熱として捨てられると言う意味です。電力会社での発電では、電力に変換分が約45%で、残りの55%は排熱として捨てられいます。これと比較すると、固体酸化物型燃料電池SOFCは驚くほどに効率が良いことが分かります。エネファームtype Sの発電出力は最大0.7kWとなっている。
畜電池を導入することで、電力供給に余裕があるときに電気を蓄え、電力が不足のときに供給する電力平準化装置として活用できます。これにより、発電出力が0.7kWと小さな燃料電池でも、理論的には、家庭の電力需要の大半を賄えることになります。屋上に太陽光発電パネルを設置し、余剰分は売電すると、売電相当の二酸化炭素が「-(マイナス)」分として計算され、二酸化炭素CO2の排出が削減できる。環境省と経済産業省は、適合住宅には補助金を出してZEH-Mを推進しています。
Nearly ZEH-Mの試算への考察
ライオンズ芦屋グランフォート 資料1)はNearlyZEH-M(ニアリー・ゼッチ・マンション)とのことです。この集合住宅には、エネファーム type Sが設置されています。エネファームtype S(燃料電池)は都市ガスから電力と熱を生産し供給するシステムです。発電効率が電力会社の発電より約10%良い。また、燃料電池から給湯と冬季の暖房(床暖房)用に温水も供給されるので家庭の省エネ効果が大きいくなる。
集合住宅としては、5階建てと、低層のマンションとなっています。太陽光発電システムの発電容量は、1戸あたり2.3~3.5kWとなっています。集合住宅で戸建て並みの発電容量が確保出来たのは、各戸の部屋面積が広いのと低層住宅だからです。概算すると、部屋面積80m2x天井面積換算係数1.4÷階数5≒23m2/戸となり、2kW/戸を超える太陽光発電が可能となります。最小2.3kWの発電容量でも、月平均200kWhを超える発電量が得られ、二酸化炭素CO2の削減効果が増大します。太陽電池は、停電時は最大1.5kWの電力を供給し、その電力の一部を蓄電池に蓄え、最大500Wの電力を使用できるとのこと。このような機能は、災害時に役立ちます。設置されている蓄電池は1kWhとのことであるが、これを電力の平準化に使えば、燃料電池FCなどを更に効率的に使うことも可能です。
気になったのは、設備投資額です。具体的な説明はないが、エネファーム type S:200数十万円、蓄電池:10万円、太陽電池:70万円を合計すると、300万円+αとなる。これに、メンテナンス料や将来の設備更新代が加算されます。国からの補助金があるとしても、光熱費の削減が134千円/年と言うことなので、設備投資額を回収するには20年程は掛かる。
また、温室効果ガス(GHG)の削減効果について、説明がなかったので試算して見ました。その結果、基準の二酸化炭素排出量3,153kg-CO2から、321kg/年(対基準の10%)削減※される。これに、太陽電池の売電分が2,460kWh/年があり、970kg-CO2相当であるので、合計では1,291kg/年(対基準の41%)の削減となる。
※電力の再生可能エネルギーの導入が一段と進むと、エネファームの優位性が保てるかも将来の課題となる
試算の仮定
①都市ガスの排出係数は2.29kg-CO2/m3、②電気の排出係数は東電0.455と関電0.334の平均値0.3945kg-CO2/kWhを使用 ③エネファームtype Sの電力の排出係数は、発電効率を考慮
注:試算は、理想的な場合であり、実際と異なることもございます
戸建て住宅の試算への考察
戸建て住宅のアイシン精機(株)参考2)による試算をトレースしてみます。今回は温室効果ガス(GHG)の排出係数や電気/ガス料金は最近のデータを使っています。仮定として、電力は燃料電池で全て賄い、排熱は温水として給湯と暖房に使う。type Sの発電容量は700Wと小さく、当然、電気機器が一斉に使われると電力が不足する。しかし、蓄電池や電気機器の開始のタイミングシフトなどを考慮して、ここでは、この発電容量で足りるとした。したがい、ここでは、ベストシナリオ(理想)となっています。
結果は、給湯と暖房に使用するエネルギーの削減効果が大きい。二酸化炭素CO2の削減量は1,051kg/年、対基準の24%で大きな効果※※が生れる。同社のwebのデータの削減効果1,500kg/年よりは小さくなっている。これは、同社の試算時に、電力に対して、原発停止中かつ太陽光発電の導入が進む前の二酸化炭素CO2の排出係数が使われたためである。
※※電力の再生可能エネルギーの導入が一段と進むと、エネファームの効果は半減以下になる可能性もあり得る
コストの計算もしてみた。年あたり、約115千円の削減となる。こちらの場合も、設備投資を回収するには20年程度は掛かる。やはり、現時点では、設備コストが一番の課題であると再認識した。
試算の仮定
①電力はtype S発電で100%賄う ②発電時の排熱は温水として使う⇒温水は給湯と暖房に半分ずつ割り振る⇒賄いきれない分はガスで沸かす ③都市ガスの排出係数:0.0509[t-CO2/GJは大阪ガスの値を使用 ④電力の排出係数は関電と東電の平均値を使用 (0.455+0.334)/2=0.3945 kg-CO2/kWh ⑤type Sの電力の排出係数は、発電効率を考慮した
注:試算は、理想的な場合であり、実際と異なることもございます
参考1)大京
https://lions-mansion.jp/MF161037/sustainable.html
参考2)アイシン
https://www.aisin.co.jp/cogene/enefarm/