温室効果ガス(GHG)である二酸化炭素(CO2)濃度の測定方法と活用
まとめ
◇温室効果ガス(GHG)である二酸化炭素CO2の測定には、非分散型赤外線(NDIR)分析計が使われている。二酸化炭素CO2分子の逆対称伸縮振動に伴う波長4.3μm(波数2349cm-1)の赤外線吸収などから、大気中の二酸化炭素CO2濃度を測定している
◇衛星からの計測と地上/海洋に設置したセンサーネットワークを組み合わせた二酸化炭素CO2の計測網を活用し、海洋や森林の炭素循環を明確にするのが課題と考える
◇信頼性に優れ、安価な二酸化炭素CO2センサーが提供されれば、市民によるセンサーネットワークで、二酸化炭素の世界規模のモニターも可能となると思われる
今回は温室効果ガス(GHG)である二酸化炭素CO2の濃度の測り方についての報告です。
二酸化炭素(CO2)濃度の測定方法
二酸化炭素CO2は地球温暖化に及ぼす影響が約75%と最も大きい温室効果ガス(GHG)です。二酸化炭素CO2の分子構造は、写真のように1つ炭素の両側に2つの酸素が、2重結合して直線状に繋がれている。室効果ガス(GHG)である二酸化炭素CO2は、赤外領域の光を吸収します。赤外線の周波数と分子の固有周波数または共振周波数が一致するところで鋭い吸収が起こります。例として、4.257μm(波数では2349cm-1)付近で逆対称伸縮振動【O⇔C-O⇒】に伴う吸収 参考資料1)が、波長14.99μm(波数では667cm-1)付近に偏角振動に伴うの吸収 参考資料4)があります。
二酸化炭素CO2の測定には、一般に、白熱球ランプなどの非分散型赤外線(NDIR、Non Dispersive Infrared)が使われています。検出器には、二酸化炭素CO2が4.257μm付近の赤外線を吸収する性質を使っています。光源から検出器に入るまでの経路中に二酸化炭素CO2が含まれていると、4.3μm付近の赤外線が吸収され、検出器に到達する光の強度が減衰します。検出方式は、到達する光量を熱起電力として捉えるサーモパイル(熱電対)方式や光のエネルギーを音響波に変換して検出する光音響分光(PAS= Photo Acoustic Spectroscopy)方式などが使われている。光源が非分散型赤外線(NDIR)かつ検出器がサーモパイル(熱電対)方式のものを、一般に、非分散型赤外分析計あるいはNDIR分析計と呼んでいるようです。 検出器は、通常、2つ準備されていて、1つのセンサーには4.3μmの光を通す、他のセンサーには(4.3μmの光を通さないで)他の波長の光、例えば、3.9μmの光を通すフィルターが備わっている。両者のセンサーの出力(起電力など)の差から二酸化炭素CO2の濃度を検出する。
一方、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT-2) 参考資料3)には、FTS-2センサーが搭載されている。FTS-2にはフーリエ分光方式(分散型、FTIR)が採用され、波数5,900~6,400cm-1(波長1.56~1.69μm)領域で二酸化炭素CO2とメタンCH4、また、波数700~1,183cm-1領域(波長8.45~14.29μm)で二酸化炭素CO2と温度の測定を行っている。
二酸化炭素CO2の濃度測定の活用
二酸化炭素CO2は、温室効果ガスの中の主要なガス(約75%を担う)であるため、大気中の濃度の精密測定が欠かせません。地球規模の測定には温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT-2)が利用されます。また、大気中だけでなく、海水中の二酸化炭素CO2の測定も必須です 参考資料6)。海洋は、二酸化炭素CO2を吸収したり、蓄えたりする重要な役目を担っている。海洋は、大気に放出される二酸化炭素の約30%を吸収し、大気に存在する約50倍の二酸化炭素を蓄積していると推定されています。
大気、森林、土壌、海洋など、地球スケールの炭素循環の解明と監視が最終的なターゲットとなります。そのためには、衛星による測定、特定場所における精密な定点測定に加えて、(やや低い精度でも)地上や海洋・海水中の二酸化炭素CO2の常時計測ネットワークの構築が必要と考えられます。
林野庁などが、微気象学的方法と言う方法で、森林の効果を調べていますのでご紹介いたします。森林の中に鉄塔を建て、その上で空気の流れとCO2濃度を精密に測定することで、森林への二酸化炭素CO2の吸収量を継続的に測る方法が開発されています。多くの森林で約1t/ha・yearの炭素吸収があるとのことです 参考資料7)。
二酸化炭素CO2濃度の測定器を自作
「農業&自然センシング大研究」特集本 参考資料8)がたまたま目に入り、興味があったので購入しました。農業分野がターゲットで、温度、湿度に加えて、二酸化炭素CO2、太陽光の分光、pH(水素イオン濃度、酸性・アルカリ度測定)、土壌水分などを測定する方法が紹介されています。私も、Arduinoのマイコンボードに種々のセンサーを搭載して環境測定器を作った経験があります。今回、漆谷氏の記事の通りに、大気中の二酸化炭素CO2の測定器を作ってみました。ArduinoボードにLCD、SDカード、WiFiおよびバッテリーまでが積載されたM5Stackを初めて使いました。二酸化炭素CO2センサー(型式MH-Z19B)は、非分散型赤外線(NDIR)ですが、測定波長に付いての情報は入手出来ていません。今回使用したセンサーは、室内環境あるいは温室の二酸化炭素監視には問題ありませんが、絶対値が計測できないので、大気中の二酸化炭素CO2の常時モニターには適当でないことが分かりました。
一般人でも、簡単に、IoTセンサーネットが作れる時代となりました。(自社製品の購入者向けですが)気象データを世界レベルで繋げるサービスも提供されています。このようなサービスに二酸化炭素CO2のデータが加われば、再生可能エネルギーの発電量の経時予想や自然の環境モニターとして活用できると考えています。
参考資料
資料1)
https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/ftir/ftir1.html
資料2)
https://www.environment.co.jp/study/stdy2.htm
資料3)
https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2016/1602105.pdf
資料4)
http://bunseki.kyushu-u.ac.jp/bunseki/media/118.pdf
資料5)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/co2/knowledge/observation.html
資料6)
https://www.jamstec.go.jp/mutsu/co2/theory/index.html
資料7)
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/7/7-2/qa_7-2-j.html
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/20141113_topics2_2.html
資料8)
インターフェース(CQ出版) 2019年9月号