地球温暖化の影響か? パナマ運河も水不足
まとめ
◇水辺の自然環境を守るために、アラフエラ湖、ガトゥン湖およびミラフォーレスダ湖の水位を適正に維持する必要がある
◇乾季時期の渇水を予想して、再生可能エネルギーの発電所を新設して、捨てている水をガトゥン湖に戻すのが良いと考える
今回は、パナマ運河を取り上げます。2019/09/24日付の日経新聞は「パナマ運河 気候変動で危機に」で船の通行に必要な水が不足傾向だと伝えています。
パナマ運河とは
パナマ共和国にある大西洋側のカリブ海にあるコロンと太平洋側のバルボアを結ぶ、全長約82kmの運河です。毎年、約12,000隻の船舶が通過し、スエズ運河と並ぶ、海上交通の大動脈です。パナマ運河は、海抜約26mのガトゥン湖を航路に利用しています。そのため、この湖と太平洋/大西洋との段差を上る、下るの仕掛けが必要です。閘門式と言われる、ゲート付きの巨大なプールを、入口と出口にそれぞれ3台準備して、水の力で船を26mの高さまで持ち上げたり、下げたりしています。各プール間の段差は平均約9m(≒26/3)になります。船のプール間の移動は、プールに水を満たしたり、抜いたりして進行方向の隣り合うプールの水位と一致させた後、ゲートを開けて前進させます。水はガトゥン湖に溜まった水を用いています。したがって、船が通る度に、ガトゥン湖の水が海洋へ流れ出しています。このため、水不足になると、船はパナマ運河を通れなくなってしまいます。
旧閘門を通過している写真です。①船はカリブ海上に、②第一段目の閘門が開く、③第一段目の閘門に入る、④閘門を閉じ、水を入れて船が上昇、⑤第二段目の閘門が開く、⑥新閘門Agua Clara
水路としてのガトゥン湖の水は濁って泥の色でした。一方、湖の岸際では、水は澄み、自然に恵まれています。熱帯雨林の植物、昆虫観察ツアーやボートによる湖岸の観察ツアーなどが行われています。私は、後者の方のツアーに参加し、自然の動物を観察しました。船の通行の確保と自然を守るためには、ガトゥン湖の水量が適正に保たれる必要があります。
(a) (b) (c)
(a)ガトゥン湖で出会った日本郵船の船、(b)太平洋側の出口へ向かう、(c)太平洋へ出た
ガトゥン湖の水辺に住む動物と風景
水の流出について
閘門は、カリブ海側と太平洋側の2箇所にあります。1914年8月に開通した旧閘門に加えて、2016年4月に大型船用に新閘門が開通した。両者の比較を下表に示す。新閘門を通れる船の最大のサイズをNeopanamaxと言う。従来のPanamaxと比べて、長さで1.24倍、幅で1.52倍、深さで1.2倍となっています。閘門プールの容積を比べると、2.3倍も大きくなっている。
パナマ運河は3つの湖の水を使用しています。海抜が高い方から、アラフエラ湖(76.8m)、ガトゥン湖(26.7m)、ミラフォーレスダ湖(16.5m)である。貯水量は、順に、651Mm3、775Mm3、2Mm3となっている 参考資料2)。航路として使うには、ガトゥン湖の水位はほほ一定に維持する必要がある。したがって、船の往来で減少した分の水は、(降雨が無ければ)上部に位置するアラフエラ湖から引いてくることになる。
情報が限られているので、正確な計算は難しいが、どれ位の水が必要かの試算を行う。閘門の容積(ここではプールと呼ぶ)は、3台とも異なるが、平均値を用いる。一度使った水に関しても、旧閘門は垂れ流し、新閘門はリサイクル率60%と言われているが、具体的な使用方法は得られていない。ここでは、上段のプールで使われた不要な水は、直下の下段のプールで使うと仮定している。これにより上り、又は、下りに使う水の量は、プールの面積(m2)xガトゥン湖と大洋との水位差26(m)の1/3となる。船は、大洋から標高26mのガトゥン湖に登り、この湖の水面を航行し、ガトゥン湖から大洋に下りる。ゆえに、パナマ運河を通過する度に、大洋に流れ出す水の量は、プールの面積(m2)x水位差26(m)の2/3となる。実際には、プールの高さの違いから捨てられる水はもう少し多くなると予想される。Panamax用プールでは、通過の度に、177km3の水がガトゥン湖から大洋に流れ出す。年間では、約12,000隻の船舶の通行があるとのことなので、合計2,124Mm3の水が流出する。この数値は、水位調整用の湖:アラフエラ湖の貯水量の300%を超える。当然、運河周辺地域の降水により、水が補充されるのだろうが、乾季の間は、アラフエラ湖の貯水でしのぐしかなく、年間で貯水量の3倍も必要な条件では厳しいと推定される。
エコな水の削減方法の提案
ガトゥン湖の水は、船の航行の他に、水力発電、周辺都市への水道水としても使われている。湖周辺の自然環境を維持するためには、どの湖の水位も適正に保つ必要がある。水の流入は降水量に依存する。これ等の変数を考慮した水の最適管理が必要であろう。それでも、最近では、乾季が長くなり、雨は一度に沢山降る傾向が見られ、水の管理を更に難しくしている。したがって、船の航行に伴う水の量を減らす方法はないかと考える。最近の温暖化の影響で、乾季には、十分な水が確保できない可能性を考えると、水の大洋への流出を電力で抑える方法が現実的ではないかと思う。そこで、捨てている水を元のガトゥン湖へ戻すためのエネルギーを試算した。一回の航行で捨てている水を元の26m高い湖に戻すために必要な位置エネルギーは10MWh(私の家の電気使用量の約2年分)に相当する。年間では、総エネルギーは125GWhになる。現在のように水も使えるので半分の発電量もあれば十分と推定される。これを再生可能エネルギーで賄ってはどうだろうか。パナマの日射量や風のデータが得られないので概要しか予想できないが、50MW級の太陽光発電設備か、30MW程度の風力発電があれば足りるのではないか考える。余った電気は周辺の街で使えば良い。
参考資料
1.Autoridad del Canal de Panamá (ACP)
https://www.pancanal.com/eng/
2.九州大学 善 功企 名誉教授
http://www.cdit.or.jp/_userdata/CDIT50.pdf