太陽からの光照射量の1時間分を捕捉すれば世界の1年分のエネルギーを賄える?【日本とオーストラリアでの必要な太陽電池の面積を試算】

まとめ
◇「世界のまるまる1年分のエネルギー需要は、太陽から地球に届くエネルギー(日射量)のわずか1時間分」と説明されているが、2時間分と読み替えれば正しい

◇再生可能エネルギーに関しても、恵まれた国とそうでない国がある。恵まれた国が再生可能エネルギーから創った電力を近隣諸国へ送電する、あるいは、水素ガスに転換して輸出するなどするなど、再生可能エネルギーの利用の地球規模の協力が必要である

◇太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが増えてくると、昼夜、地域差、気象条件変化などに対応するために、蓄エネルギー技術による平準化と広域連系が必須となる

左:太陽光発電 メガソーラー1    右:太陽光発電 メガソーラー2

世界の年間エネルギー需要と太陽から届くエネルギー1時間分は同じ?

 環境問関連の講演会などで良く聞く、「Enough solar energy reaches Earth every hour to fill all the world’s energy needs for a full year」と言うフレーズの内容について検討しました。英語の部分は、「世界のまるまる1年分のエネルギー需要は太陽からの地球に届くエネルギー(日射量)の1時間分で十分」とでも訳せば良いかと思います。言い換えると、「世界の1年間のエネルギー需要≒太陽から地球に到達する太陽光エネルギーの1時間分」と言うことですね。これが、本当なら、太陽は、こんなに沢山ものエネルギーを地球に供給してくれていることになります。そういえば、食料も、植物も太陽からの光エネルギーを貰わないと育ちません。石炭、石油や天然ガスなども化石燃料と言われていますが、太古に太陽の恵みで創られた植物などが変化したものです。

 参考資料1)を基に検証して見ましょう。地球の大気圏外では、太陽から降り注ぐ光のエネルギーは 1,370W/m2(太陽定数)です。地球の半径をr(= 6,378 km)とすると、光を受ける面積は、πr2です。一方、地球の総表面積は、4πr2ですので、地表に換算すると、1,370/4=342.5 W/m2が太陽光のエネルギー密度となります。太陽からの光が大気圏外から大気圏内に入射すると、散乱(約30%)と吸収(約19%)が起きます。したがって、地表に到達する太陽光エネルギー密度は更に減少して、342.5 W/m2 · (1-0.49) = 174.7 W/m2となります。太陽から地球表面に到達するエネルギーの総量は、次のようになります:
P = (174.7 W/m2) · (4πr2) = (174.7 W/m2) · 4π · (6,378 km)2 · [10(6) m2/km2] · [10(-12) TW/W] = 89,300 TW
一方、2015年の世界の総エネルギー消費量は164,000TWh 資料2)。この数字は太陽から地球表面に到達するエネルギーの総量の約2時間分のエネルギーに相当します。参考資料1)の2001年時点の試算では、1時間半に相当する結果でした。したがって、先の良く言われるフレーズは1時間を2時間に言い換えれば正しいことになります。人口増加などに伴い、世界のエネルギー消費量は年々増加し続けています。

 世界の総エネルギー消費量を電源容量に読み替えると、次のようになります:164[PWh]/(365*24)[h]=18.8[T]
この数値は、太陽電池効率η=0.15とすると、太陽からの地球表面に到達する総エネルギーの0.14%相当になります。ゆえに、必要な地表面積を計算すると次のようになります:
A18.8TW = 0.14% · (4πr2) = 0.14% · 4π · (6,378 km)2 = 715,653 km2
この数値は、チリ共和国 (756,000 km2) または ザンビア共和国 (752,610 km2)の国土面積よりやや小さい値です。

国の総エネルギー需要を太陽光発電で賄う:日本とオーストラリアの比較

 次に、日本とオーストラリアを例にとり、自国の総エネルギー消費量を太陽光発電で全て賄えるかを検討してみます 参考資料3)~参考資料13)。
 人口密度の高い国:日本(336人/km2)とそれの低い国:オーストラリア(3.1人/km2)との比較でもあります。それぞれのエネルギー消費量(年間需要)は、17,820PJと5,432PJで、人口が多い日本の方がオーストラリアの3.3倍ほど大きい。世界のエネルギー消費量に占める割合は、日本:3.1%、オーストラリア:0.9%である。一方、1人当たりのエネルギー消費量で比べると、オーストラリアは、日本の1.6倍のエネルギーを使っている。理由は、住い方、移動手段などのライフスタイルに起因するものと思われる。日射量を比べると、オーストラリアの方が約1.5倍も多く、太陽光発電に適した国であることが分かる。

日本とオーストラリアの比較 国土、人口、エネルギー消費量、日射量

 国のエネルギー使用量を全てを太陽光発電で賄うにはどれだけの土地面積が必要かを推定してみる。先ず太陽電池パネルの面積1km2(1km□)の太陽電池容量(太陽電池モジュールの公称最大出力)は200MW(200,000kW)となり、どこでも同じ値です。しかし、太陽電池パネルを設置する場所で発電量は異なります。発電電力量は、設置場所の日射量、気温、風の向きや強さなどの気象条件に依存します。ここでは、太陽電池パネル設置の方位や角度は最適化したと仮定し、無視しします。太陽光発電所の発電電力量は、日射量などを考慮して、それぞれ、太陽電池容量と1,100時間(日本)あるいは1,500時間(オーストラリア)の積として算出します。日本の太陽電池容量1MWクラスの太陽光発電所の敷地面積は約15,000m2/MW(0.015km2/MW)と言われている。この数値は、言い換えると、1km2の土地に設置できる太陽光発電所の太陽電池容量は67MWである。また、世界の大規模の太陽光発電所の平均値は約40MW/km2であった。したがって、実際の太陽光発電所に必要な土地面積は、最低でも、太陽電池パネルの面積の3倍は必要となる。これは、パワコン、変圧器、監視装置などの太陽光発電所の制御装置類に加えて、エンジニアが作業時にアクセスする最低限のスペースやトラック、重機などが通る道路などが必要なためである。

日本とオーストラリアの比較 総エネルギー消費量を賄うための太陽光発電

 日本のエネルギー消費量を太陽光発電で全て賄うとすると必要な土地の面積は67,500km2となった。この数値は、国土の総面積の18%であり、森林や耕地を除くと、81%にもなる。日本の屋根を全て太陽電池パネルで覆っても必要な面積の6%にしかならない。したがって、日本が単独で、太陽光発電だけでエネルギー消費量の全てを賄うことは出来ない。一方、オーストラリアでは、オーストラリアの総エネルギー消費量を満たすには国土の0.2%だけを太陽光発電所にすればよい。先の試算では、世界のエネルギー消費量を満たすのには、太陽からの地球に届くエネルギー(日射量)のわずか2時間分を太陽光発電所で電力に変換すれば足りる計算となるが、国毎に考えると、容易に達成可能な国、オーストラリアの様に人口密度が低く、かつ、太陽光発電に適した恵まれた国と達成が不可能な国、日本の様に国土が狭く、人口密度が高い恵まれていない国がある。ゆえに、恵まれた国から太陽光発電から創られた電力を恵まれない国へ送電する、あるいは、余剰電力で水を電気分解して水素ガスH2として貯蔵、液化し、恵まれない国へ輸出することで、世界規模で再生可能エネルギーへの転換を図る必要性がある。ここでは、太陽光発電に注目して述べたが、風力発電、バイオマスなどについても同様なことが言えると考える。日本の場合には、国土面積は狭いが、海洋の面積は巨大なので、海洋を活用した再生可能エネルギーが出現すると、状況はまったく変わってくるので将来の海洋イノベーションに期待したい。

写真
左:屋根設置太陽電池A 中央:屋根設置太陽電池B 右:屋根設置太陽電池C 

参考資料一覧
資料1)
https://www.sandia.gov/~jytsao/Solar%20FAQs.pdf
太陽からの日射量の計算

資料2)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2017html/2-2-1.html

資料3)
https://www.sandia.gov/~jytsao/Solar%20FAQs.pdf
The solar constant (the solar flux intercepted by the earth) is 1.37 kW/m2.

資料4)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/territory/page1w_000011.html
日本の領土の総面積

資料5)
http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/10.html
農地に関する統計

資料6)
http://www.rinya.maff.go.jp/kids/study/faq/answer.html
日本の森林面積

資料7)
https://okwave.jp/qa/q4169139.html
日本の屋根の総面積

資料8)
http://www.invesco.co.jp/info/20150304AustraliaReport.html
オーストラリア国土面積、人口

資料9)
https://www.globalnote.jp/post-4911.html
世界の一次エネルギー消費量 国別ランキング・推移(IEA)

資料10)
http://www.bom.gov.au/jsp/ncc/climate_averages/solar-exposure/index.jsp?period=an#maps
The average daily global solar exposure over Australia

資料11) 
http://www.jpea.gr.jp/pdf/011.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E5%B9%B3%E5%9D%87%E6%97%A5%E5%B0%84%E9%87%8F%27
日本の年間予想発電量

資料12) 
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2017html/2-2-1.html
世界のエネルギー消費量

資料13) 
https://www.paj.gr.jp/statis/kansan/
エネルギーの換算