環境負荷が一番小さい車を選ぶ
まとめ
◇現時点では、Yarisハイブリッドと最新の軽EVのCO2排出量はほぼ同等
◇輸送分野のCO2削減には、自動車製造時点のCO2排出量の低減と同時に電力の脱炭素化が必須
◇車の生涯走行距離の倍化も課題
新車を買いたいが迷ってしまいます。どれを選んだら良いのでしょうか? 環境負荷が一番小さい車を選びたいと考えています。実績のあるハイブリッド車が良いのか?、話題の電気自動車が良いのか?
比較車種の選択
2021年の燃費ランキング 参考1)によるとトヨタのYarisハイブリッドが一番で、WLTCモード燃費値が36.0km/Lだったとのことです。近年、海外では環境車の切り札として電気自動車(EV)の導入が進んでいます。日本でも、今年に入り、EVの発表が続いていますので、EVとYarisハイブリッドの比較を試みます。
下表に比較の候補を示しています。#1~4が電気自動車です。その内、#4のみが軽自動車で、その他は3ナンバー車です。#5はガソリン・ハイブリッド車です。比較項目としては、燃費/電費に加えて、車体重量、リチウム・イオン電池の容量も示しています。電気自動車の電費の比較では、ニッサン LEAF Xの数値が大きいことに気づきますが、コストを掛けられなかったのでしょうか? 最軽量の三菱 ekXEVの電費が一番良い値となっていますのでYaris ハイブリッドと比較する対象はこの車種とします。
# | 車種・モデル | 燃費・電費※ (Wh/km) | 重量 (kg) | 電池容量 (LIB_kWh) | 備考 |
1 | トヨタ bZ4X | 128 | 1,920 | 71.40 | EV |
2 | テスラ model 3 | 127 | 1,760 | 54.0 | EV |
3 | ニッサン LEAF X | 155 | 1,520 | 40.0 | EV |
4 | 三菱 ekXEV | 124 | 1,080 | 20.0 | EV |
5 | トヨタ Yaris HB-X | 36.0 km/L | 1,050 | (0.74)† | ハイブリッド |
注 上記データは各社WEBページから入手。※燃費・電費はWLTC modeの数値です。電費の値は小さいほど、逆に燃費は大きいほど効率的です。†他情報による
Yarisハイブリッド車とEVの比較
ここではトヨタ Yarisハイブリッドと三菱 ekXEVのCO2排出量の比較を行います。
厳密な比較をしてどの車が一番環境に良いのかを判断したいのですが、残念ですができる状況にはありません。燃費や電費の情報は提供されていますが、自動車メーカーの車の製造時点までに排出されるCO2のデータ等が提供されていません。
トヨタのYarisの環境仕様 参考2)が示されていますが、絶対数値ではなく、相対数値が示されているだけです。そこで、(物差しで計測して)構成要素毎のCO2排出量割合を分解および走行時のCO2排出量(WLTC mode)の絶対数値から、構成要素毎の排出量の絶対値を得ました。この数値はあくまで私個人の推定値の扱いとなります。CO2の排出量は、素材製造:約2,000kg、車両製造:約1,100kg、メンテナンス:約300kg、廃棄:約200kgと推定しました。環境省によるガソリンのCO2排出係数は、2.32kg/Lとなっていますので、36km/Lで除すと、1km走行当たりのCO2排出量は64g/kmとなります。10万kmの走行によるCO2の排出量は約6,400kgとなります。
EVのCO2排出量を計算します。リチウム・イオン電池(LIB)のCO2排出量は大きいと言われていますが、具体的な数値がメーカーから提供されていないのでYaris を基準として車両重量比で計算しました。この条件では、車両重量の差が小さいため、Yarisハイブリッドと三菱 ekXEVの製造時(素材製造+車両製造)のCO2排出量はほぼ同じとなってしまいます。
ここでは電力会社から電気の供給を受けてEVに充電して使うとします。東電の基礎排出係数は0.447(CO2_kg/Wh)ですから、1WH(ワット時)の電力を使用すると、0.447gのCO2が排出されます。また、電池の充電時、損失なく電池に電気が移動することはありません。ここでは、効率を90%と推定しました。つまり、充電時に10%のエネルギーが損失するとしています。したがって、三菱 ekXEVの場合は、1km走行するのにCO2を0.447×124÷0.9=62g排出する計算となります。この数値ではYarisハイブリッドより2g/kmと少ないことが分かります。
電力業界の2030年度のCO2排出係数の目標値は0.37 CO2_kg/kWhなので、2030年になると、三菱 ekXEVの場合は、51g/kmと計算されます。10万km走行すると、現在より1,300kgのCO2が削減される計算になります。
次の図は、0~10万km走行までのCO2の排出量を示しています。10万kmは日本の自動車の平均生涯走行距離です。0kmの数値は車の製造時のCO2排出量です。便宜上、10万km走行時点にメンテナンスに必要なCO2排出量をまとめて加えています。ただし、廃棄に伴う排出量(約200kg)は加えていません。日本の現在の電力のCO2排出係数では、Yarisハイブリッドと三菱 ekXEVのCO2排出量はほぼ同等と推定されます。日本の電力が、2030年の排出係数まで改善されれば、EVの確かなメリットが確認できます。したがって、輸送分野のCO2削減には、EVの導入と同時に電力の脱炭素化も進めることが肝心です。
生涯走行距離と二酸化炭素の排出量
生涯走行距離とは、廃車するまでに走行する距離を言います。日本の自動車の生涯走行距離は、海外の約半分の10万㎞と言われています。環境に良い燃費/電費車は出来るだけ使われることが好ましいです。その点では、環境性能の良い車はレンタカーやシェアーでもっと、もっと使われ、走行距離を延ばして欲しいものです。走行距離が伸びないと、自動車製造に使った二酸化炭素(CO2)が回収が進みません。
車の環境性能は走行距離当たりのCO2排出量で判断されます。具体的には、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)を考慮して計算します。CO2の総排出量は、製造時(素材製造+車両製造)、走行時、メンテナンス時および廃車時の合計となります。CO2の総排出量を生涯走行距離で割り算した値、1km走行当たりのCO2排出量(CO2_g/km)が指標となります。したがって、燃費あるいは電費が良いのは当然ですが、生涯走行距離が大きい方が有利となります。
参考資料
1.自動車の燃費ランキング
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000247.html
2.トヨタYaris環境仕様
https://toyota.jp/pages/contents/yaris/001_p_001/4.0/pdf/spec/yaris_ecology_202105.pdf