蓄熱式ヒートポンプ・システムについて

まとめ
◇蓄熱式は電気エネルギーを熱として蓄える方式の熱システムです。電力の効率的な利用に寄与しています
◇蓄熱槽とヒートポンプを組み合わせた蓄熱式ヒートポンプ・システムは高いエネルギー効率と低ランニングコストが特長です
◇蓄熱式ヒートポンプ・システムの具体例はエコキュート、床暖房、エコアイスなどです
◇国内の蓄熱式ヒートポンプ・システムの導入状況から見積もると、電力負荷平準化への寄与率は約3.3%と推定される

 今回のテーマは蓄熱式ヒートポンプ・システムです。電気エネルギーを熱として蓄える蓄熱式は効率的で環境に良いシステムです。蓄熱式は、給湯器、床暖房、空調エアコンなどに使われています。エコキュート(給湯器)を例にすると、深夜の余剰電力を利用して温水を蓄え、昼間に利用することで、低コストかつ電力供給を安定化するのに役立っています。

電力負荷平準化とは

 電気を貯蔵する方法には幾つかありますが、一般には、多様な用途に使える電気に戻す方法が多くの場合で採用されている。代表的な例は蓄電池です。一方、最終的に熱として使う用途には蓄熱式が優れています。この方式は、冷水/温水の供給や冷暖房などの空調で活用されています。熱エネルギーを貯める蓄熱槽を発泡スチロールなどで覆う、あるいは真空魔法瓶とする断熱により、蓄熱槽への熱の流入/流出を防止し、熱エネルギーの貯蔵が可能となります。蓄熱式は24時間程度の熱の貯蔵/使用の繰り返し用途に最適です。

 電力会社などは、変動する電力需要に合わせて電力を安定的に供給できるように、発電から送配電に至る一連の電力設備の容量をピーク時に十分な供給ができるように用意しておく必要があります 文献1)。電力需要の負荷平準化とは出来る限り、電力の需要の時間的な変動を少なくすることを言います。対応策としては、昼間に発生する電力のピーク需要の一部を夜間にシフトすること等により、発電から送配電に至る一連の設備の必要量を抑制し、電力供給コストの低減に寄与させる。同時に、ピーク時の電力消費量の抑制を通じ、発電量と実際の需要電力との乖離を極力少なくすることで二酸化炭素排出量の削減にも役立つ施策です。さらに、負荷平準化は電力需要の急激な増加時に発生する電力安定供給上のリスクを軽減し、信頼性の向上にも役立ちます。

蓄熱式システム

 蓄熱方式は古くは暖房用のストーブに使われていました。熱容量の大きな暖炉用レンガが蓄熱の役割を担っていました。現在でもヨーロッパ・メーカーが蓄熱式の電気ストーブを販売 文献2)しています。蓄熱には酸化マグネシアや酸化鉄などの耐火レンガ・ブロックが使われています。ただし、加熱方式はジュール熱を使用しているのでヒートポンプの様なエネルギー効率は期待できません。

 深夜にお湯を沸かして蓄熱槽に貯蔵して置き、活動時間帯に給湯あるいは熱として使うシステムとしては、温水給湯器(家庭用のエコキュート他)、あるいは温水床暖房があります。エネルギー効率に優れたヒートポンプ 文献3)でお湯を沸かす方式が一般的となっています。家庭用ヒートポンプ給湯機(エコキュート)は毎年数十万台が出荷されて大きな市場を形成 文献4)しています(図1)。給湯と床暖房がセットになったものがあれば欲しいと思って探しましたが、残念ながら調査した範囲では兼用型は見つけることができませんでした。家庭用の他にも業務用の給湯器もあります。浴室・洗面用あるいは調理用に冷水/温水を供給するシステムです。

図1 文献4)のデータから作成

 比較的新しい省エネビルには蓄熱式の空調システムが導入されています。暖房時、冷房時の両方に蓄熱式を使っているところはシステムを特注して導入しているようです。冷房時のみ蓄熱槽を使う、氷蓄熱パッケージエアコン(エコアイス)と言う標準的なエアコンもあります。これは深夜に冷温水を貯留槽に蓄え、電力がピークを迎える夏季の午後などに冷水で空調する(図2)ことで、契約電力の最大電力を抑えています。エコな製品にも拘らず、過去数年の需要は急減 文献4)しています(図3)。

図2 氷蓄熱パッケージエアコンのイメージ図
夜間に冷水/温水を貯めて昼間の空調に使用
図3 文献4)のデータから作成

電力負荷平準化への寄与

 蓄熱式ヒートポンプシステムが電力負荷平準化へどの程度寄与しているかを見積もってみます。給湯器に関しては、家庭用エコキュート分を算出します。業務用は平均の容量が不明なので組み入れていません。また、蓄熱式空調機に関しては、氷蓄熱システムと氷蓄熱パッケージエアコンの両方の蓄熱容量のデータ 文献4)がありましたので組み入れました。

①家庭用エコキュート
仮定 平均タンク容量:370ℓ、平均使用量:タンク容量の50%、温水温度:80℃、水温:15℃ 
→一台当たりの蓄熱容量:14.0kWh/台
→総合蓄熱容量:累積台数6.916M台x14.0kWh/台=96.8GWh

②蓄熱式空調機(氷蓄熱システム+氷蓄熱パッケージエアコン)
→総合蓄熱容量:16.036GWhx稼働率0.7=11.2GWh

以上から、蓄熱式ヒートポンプ・システムの蓄熱エネルギーの合計は108GWhとなる。揚水発電システムの蓄電容量は130GWh 文献6)とあるので、蓄熱式ヒートポンプ・システムの蓄熱エネルギーは揚水発電システムとほぼ同等レベルと言える。電力負荷平準化寄与度はそれぞれの蓄熱容量を2018年度の1日当たりの受電電力量3,207GWh 文献5)で除して算出し、下表1にまとめた。

蓄熱容量
GWh
利用率
実際の利用容量
GWh
電力負荷平準化
寄与度 %
エコキュート19450973.0
蓄熱空調1670110.3
表1

参考文献
文献1)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2013html/3-4-3.html

文献2)
https://www.nihonstiebel.co.jp/products/heater/lineup/index/thermal_storage_heater/

文献3)
https://www.hptcj.or.jp/

文献4)
https://www.jraia.or.jp/statistic/index.html

文献5)
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2018/0-2018.pdf

文献6)
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-08.pdf#search=%27%E6%8F%9A%E6%B0%B4%E7%99%BA%E9%9B%BB%E5%AE%B9%E9%87%8F%27