日射量を制御して住宅の省エネ化

まとめ
◇建屋へ入射する太陽光のエネルギー(日射量)は軒の長さと窓の形状などで決まり、表計算ソフトでシミュレーションが可能である
◇晴の日の日射量は冬季でもkWレベルが期待され、昼間の暖房が不要となる場合もある
◇省エネかつ快適な住宅環境を得るには軒の長さは凡そ1.5~2.5mが良い。多くの集合住宅のバルコニーはこの条件を満たしている
◇戸建てでは夏季の日射量をどのように抑えるかが省エネのカギとなる

 今回のテーマは太陽から建屋に入射する光エネルギー(日射量)です。表計算ソフトを利用して設定した日の毎時の日射量をシミュレーションしてみました。その結果、日射量を制御することで省エネと快適な住宅環境が得られることが確認できました。

はじめに

 太陽光発電所の発電量を予測するシミュレータを以前作ったことがあります。その経験を活かして、今回、建物に入射する太陽エネルギー(日射量)を計算する表計算ソフトを作成しました。

 太陽から地球の大気圏外に降り注ぐ光エネルギー:「大気外全天日射量ΣQ’」は観測場所の緯度・経度と日時で決まります 資料1)。地表に到達するエネルギー量(日射量)は、「大気外全天日射量ΣQ’」に係数を掛けて計算 資料2)することができます。太陽から地上に直接に到達する「直達成分」と大気中の水蒸気や塵等の散乱の結果複雑な経路を経て到達するの「散乱成分」に分けられます。S/S0は晴れの割合を示します。日照時間「0」から「1」まで変化します。係数0.588と0.17は太陽光発電のシミュレータを作った時の経験値を使っています。
日射I= 直達成分Id + 散乱成分Is = 0.588xΣQ'(S/S0) + 0.17xΣQ’

 ここで、ΣQ'(S/S0)やΣQ’を単位時間の合計値とすることで毎時の日射I(t)を得ることが可能です。緯度・経度と日時から太陽の方位と高度が決まり、建屋の窓、軒など、南面側の幾何学的な条件などが整えば、建屋に入射する太陽の輻射エネルギーの時間変化が計算可能となります。

住宅の構造と軒先の役目

 集合住宅では、バルコニーは直下階の軒になります。バルコニーの幅は軒長さ(軒天)となります。軒天は入射光の高度を制限し、冬季に日射を多く取り入れ、夏季には日射が入らないようにするのに役立ちます。

 また、同一フロアーの左右隣は防火壁で仕切られています。防火壁は入射光の方位を制限します。また、ベランダの手摺り壁は低高度の光の居住空間への侵入を遮断します。

 窓の大きさや取り付け位置によって日射量は変化します。窓の断熱性能も省エネと快適な住宅環境に重要です。

集合住宅の南面(半透明な手摺壁の例)

日射量のシミュレーション結果

 気象条件が刻々と変化する場合の日射量のシミュレーションも可能ですが、ここでは快晴時(S/S0=1)の日射量をシミュレーションしました。

 12月20日(冬至)の日射は釣り鐘の形状になっていて、日中、約2kWh/時の入射エネルギーが得られます。1月20日になると、太陽高度が高い南中の時刻(12時)前後では、軒天で直達成分Idが遮られるようになり、中央部に窪みが形成されるようになります。2月20日になると、南中時の窪みが更に下部へと左右に広がり大きくなる。平均日射量は1kWh/時まで低下してくる。3月20日の春分の日になると、昼間の時間帯の太陽高度は高く、軒天で遮られるため、直接的な日射はほぼなくなる。

 毎月20日の一日の積算日射量をグラフ化しました。バルコニー幅(軒天)2.5mの場合、①10月~翌年2月の冬季の晴の昼間にはkWレベルの日射がある、および②夏季には直射日光は住宅に入ってこないので冷房効率が上がることが分かります。バルコニー幅を1.5mに狭くすると、9月~翌年3月の冬季の昼間にはkWレベルの日射があるようになります。始まりと終わりの月がそれぞれ1月拡がるので寒冷な地区向けの条件となります。

集合住宅の日射量の月次変化

 集合住宅の我が家と比べて、上記のシミュレーション結果はリーズナブルであると考えています。日射が得られる時期や時間帯が概略一致している。外は寒くとも、晴れた冬の昼間には暖房が不要です。ジュール熱加熱方式の床暖房(1.0~1.5kW)を夜間や早朝に投入すると部屋温度を約20℃に保てるのとエネルギーレベルが概略合致しているからです。

 平屋の戸建てかつ軒天0.5mの場合もシミュレーションしました。太陽高度が一番高くなる6月20日(夏至)の日のシミュレーション結果を示す。南中時でも0.5kWh/時の日射がある。集合住宅と異なり、戸建て住宅には東西の端に防火壁がないので、朝夕に角状の日射も見られる。最も暑い時期の8月20日になると日射は1kWh/時と2倍になる。軒天の狭い戸建て住宅では、冬季の日射はありがたいが、真夏の暑い日にもkWオーダーの日射がある。したがって、夏季の昼間はエアコンがフル稼働することになると推定される。夏季の日射を防止するためには何らかの施策が必要となる。南側に屋根付きバルコニーの設置、植栽などの対策が必要となる。

戸建て住宅の日射量の月次変化

シミュレーション条件の概要
①緯度・経度:東京都千代田区
②建物:集合住宅と平屋の戸建て、方位は真南
 軒天:戸建て0.5m、集合住宅1.5mと2.5mの計3種
 窓:1.9mHx2.6mW、真空高断熱ガラス、透過率66%
③天候:快晴時

参考資料
資料1)
http://www.es.ris.ac.jp/~nakagawa/met_cal/solar.html

資料2)
https://core.ac.uk/download/pdf/70353476.pdf