まとめ
◇原発敷地への入退場の管理と入場者の被曝の管理は厳重に行われている。後者については、入場者自身も自分を守るという意識も必要です
◇バスの車窓からではあるが、一般人が原子炉傍まで行って見学出来ると言うことは、原子炉の安定化を達成し、維持できることを示している
◇汚染水を抑えることにはできたが、あと3年で保管可能な限界に達するので、次の段階の処分の目途をつけるべき時期となっている。情報公開の下で安全な放出処分を行えるようにすべきと考える
◇原子炉内で溶解し底に落下した燃料デブリの取り出し(2021年度開始)にはロボットエンジニアなど関係者の奮闘に期待したい
◇放射性物質の中間貯蔵については国民的な理解と国の超長期のしっかりした安全管理体制の確立が必要である。また、同時に人財の育成も必須である

  今回、電気技術者協会が主催した福島第1原子力発電所見学会があり、現地の状況を直接見れる良い機会と考え、参加させて頂いた。東日本大震災で亡くなった被害者のご冥福を祈ると共に今後の廃炉作業が進展することを願います。

バスで福島へ向かう

 バスは常磐自動車道に乗り、進路を北に向け福島へと向かった。途中のサービスエリアにトイレ休憩で立ち寄り、紅葉も楽しむことができた。福島県に入ると、緑色の「中間貯蔵輸送車両」表示 資料1)のトラックが目についた。0.06μSv/h(空間線量率)の表示もあり、原発事故の地区が近いことが感じられた。

 11時過ぎに富岡ホテルに入り、昼食をとる。その後、少し時間があったのでJR常磐線 富岡駅周辺を見て回る。駅周辺は整地された新興住宅地の様に見え、空きスペースも多く見られた。駅は真新しく、線路は錆びたままの状態であった。富岡駅周辺は津波の影響をまともに受けかつ原発から20キロ圏内にあり避難指示区域だったとのこと。駅は2020年の3月に再開するとの情報を後から得て駅周辺の状況が把握できた。

水素爆発を起こした原子炉建屋の視察

 東京電力廃炉資料館 (富岡町) 資料2)へ移動し、職員から説明を受ける。事故当時の映像を見た後、福島第1、2原子力発電所の現状や廃炉に向けた取り組み、視察時の注意事項などの説明が続いた。

 バスにて20分程走り、福島第1原子炉 資料3)へ向かう。道路の空間線量率表示が1.72μSv/hと少し高くなった。途中の道路の左右は帰宅困難地区 資料4)となっており、枝道の道路や路面の住宅の玄関はバリケートで封鎖されていた。住宅の前には人が通れるスペースはあるが車などは通行不可能な柵/バリケートがあった。窓ガラスが割れた、壁が壊れたままの状態で放置された建物が多い。事故から8年がたち、庭、元耕作地などには草木が茂っていた。

東京電力廃炉資料館
車窓から見た帰還困難区域にあるケーズデンキ

 原発の視察者に対する服装の制限は特には無かった。ただし、カメラ、スマホなどの撮影可能な機器は持ち込み禁止で東京電力廃炉資料館に置いて行った。

 次の流れに沿って原発敷地へ入場し、主要設備のバスからの外観視察(約1時間)をした後に退場した。

入場手続き
・視察の事前登録(来場の約1月前に名前、生年月日、住所を提出) 
・写真付き身分証で現地確認(運転免許証、パスポートなど)
・備品の装着:非接触 IDカードの入門証とカード状自動線量計(β線とγ線の被爆量計測)

・IDカードと線量計の再確認(警備員の目視チェック)
・金属探知ゲートによるチェック(空港などにあるのと同様な装置)
・入退出ゲート(檻状の箱、1人ずつ、IDカードを使用し複数回のボタン操作あり)


施設の見学
・バスで構内を移動しながら施設を巡る 
・車窓から原子発電所の主要施設(多核種除去設備ALPS、原子炉建屋、海側の物揚げ場など)の外観を見学


退場
・放射性物質の身体への付着の有無チェック装置(檻状の箱、1人ずつ)
・カード状自動線量計で被曝量を確認:β線、γ線ともゼロ(検出限界以下)だった
・入退出ゲート IDカードタッチでゲートオープン

 水素爆発を起こした#1、#3及び#4原子炉の前面道路を通り、原子炉の外観を見る。使用済み燃料棒プールの上には燃料棒の取り出し時の放射性物質の飛散防止のための蒲鉾状の天井(#3)や直方体状の天井(#4)が取り付けてあった。使用済み燃料棒の取り出しの進捗は#4:完了、#3:566本中28本、残る#1と#2は瓦礫撤去などの準備作業中である。

 処理水を保管するタンクが多数見られた。地表の大半はモルタルで覆われ雨水の地下への浸透を防止している。原子炉建屋の周りはサブドレイン井戸と延長1,500mに及ぶ凍土壁で囲まれている。これらの施策で汚染水を平均110m3/日まで抑えたとのこと。

 空間線量のモニターポストが複数ある(構内には計70カ所)。表示が読めた数値は0.60と2.20μSv/hで原子炉に近い方の数値が高かった。

 普通の作業服の人が多かった防護服:カバーオール(全身を覆う白色のつなぎ服)と半面マスク(口と鼻を覆う防塵マスク)を装着 資料5)した人も何人か見られた。原子炉などの危険作業は離れた別の建物や車両の中でロボットを遠隔操作して行ているとのことだった。

廃炉作業について

 今回得られた情報から廃炉までの主要な課題 資料6)、7)の現状をまとめた。(遅すぎるなどの批判があろうが、)私は、時間的、経験したこともない困難な状況下、関係者の努力で良くここまでやって来たと考えている。

 汚染水は抑えられるようになっている。トリチウム水の処分が出来るようになれば汚染水問題は収束する。放射性物質除去(除くトリチウム) 資料8)後の水が検出限界以下なら海洋への放出は問題ないと考える。(詳しくは述べないが、)トリチウムは、自然界でも生成する、電子を放出してβ線崩壊するおよびトリチウム水は吸収しても長時間体内に留まらないなどからである。信頼の問題が確保できれば、トリチウム水は海洋放出が現実的 資料9)と思います。

 原子炉の状態を安定的に保つことが出来るようになっている。使用済み核燃料棒の取り出しも始まった。次は2021年度から始まる最も困難なデブリの回収です。作業が終わるまで30-40年もかかる計画とのこと。ロボットエンジニアなど、関係者の奮闘に期待したい。長期間に及ぶため、人財の育成も重要である。

参考資料
資料1) 中間貯蔵輸送車両
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/transportation/transport_vehicle/

資料2) 東京電力廃炉資料館
http://www.tepco.co.jp/fukushima_hq/decommissioning_ac/

資料3) 福島第1原発google地図 https://www.google.co.jp/maps/@37.423151,141.0277438,3268a,35y,90h/data=!3m1!1e3?hl=ja

資料4) 帰還困難区域
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/list271-840.html

資料5) 管理対象区域の運用区分及び放射線防護装備https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2016/07/3-07-02.pdf

資料6) 廃炉・汚染水対策 ポータルサイト
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/

資料7) 福島第一原子力発電所 廃炉事業の現状とこれから
http://ieei.or.jp/2019/03/special201706029/

資料8) 多核種除去設備 (高性能ALPS)
https://www.huffingtonpost.jp/hiroaki-mizushima/alps_b_6867812.html

資料9) トリチウム水海洋放出問題
https://hbol.jp/174094