まとめ
◇海洋に流出したプラスチックごみは、マイクロプラスチック(5mm以下)、更に細分化されプラスチック・マイクロビーズ(100μm以下)になる。細かくなるほど、回収が困難で海洋生物に与える影響が大きくなることが懸念される。
◇出来るだけプラスチックを使わないでプラスチックごみの減量化に努める。出てきたプラスチック廃棄物は、洗浄して分別してリサイクルルートに乗せ回収してもらう。
◇プラスチックのポイ捨ては絶対にやらない。風や川を経由して海洋に流れ出すのを防止する。

はじめに

 プラスチックは石油由来の多機能な材料です。プラスチックは、形を容易に変えることができる可塑性と言う性質や、軽い・安いなどの特徴から、年間約265Mt(2010年 参考資料11))も生産されている。車や家電に、建築材料に、飲料容器や総菜の容器、更に、プラスチック袋などまで、多種・多様な用途に使われている。一部のプラスチックは、回収されリサイクルあるいは発電などによるエネルギー回収のルートから外れ、ゴミとなっている。

 プラスチックは、戸外では、太陽からの紫外線を受けて、脆くなる性質がある。家の外で使うプラスチック製品が、数年もすると、容易に割れたり、幾つかに砕けるのを経験した人は多いと思います。さらに、戸外に長期間放置されると、プラスチックは5㎜以下の大きさのマイクロプラスチックと言われている小片になる。このように大きなものから出来たマイクロプラスチックを二次的マイクロプラスチック (secondary microplastics)と呼ぶ。一方、最初から5mm以下の小片サイズで製造されたプラスチックを一次的マイクロプラスチック (primary microplastics)と呼び、区別されている。

 マイクロプラスチックは、更に、紫外線を浴びると、大きさ数ミクロン~数百ミクロ ン(mm単位では、0.001~0.1)のマイクロビーズになる。このように、プラスチックは大きなものが徐々に小さくなる傾向があるが、分解され、完全に自然い帰るまでは数百年の歳月がかかると言われている。 一方、洗顔料・歯磨き粉等のスクラ ブ材(こすって磨く)等に利用されているプラスチック・マイクロビーズは、最初からミクロンサイズで製造されたものである。最終的には、排水溝等を通じて川へ流出すしてしまう。  ポリエステルなどの化学繊維製の衣服を洗濯すると、化学繊維の糸くずがでるが、これも排水溝等を通じて川へ流出してしまう。

駐車場に捨てられたプラスチック袋   道路わきに捨てられたごみ

ごみを探して、道路、水路、沼を見て回ったが、見つかったのはこれだけ。我が街は意外にきれいだった。そういえば、ボランティアが、道路を掃除しているのを見たことがあったことを思い出した。

注意:日本の道路にゴミが少ない理由
 自治体が定期的に清掃サービスを実施している。道路に面する家の住民や商店も周辺の清掃を自主的に行っている。更に、ボランティア団体も清掃活動に参加している。諸外国では自治体のサービス以外は考えられない。これは文化の違いによるものと推定される。

日本のプラスチックごみの状況

 日本のプラスチック廃棄物量は、参考資料9)によると、総廃棄量: 9.4Mt/年 (2013年)だった。 容器包装・コンテナー向けが 4.26Mt(45%)と一番多くを占める。具体的には、ペットボトル用0.58Mt(6%)、容器包装用3.7Mt(39%)である。プラスチックごみの処理につては、プラスチックとしてリサイクル 2.3Mt (25%)、発電などに使われて熱として回収 5.3Mt(57%)、未利用 1.7Mt (18%)となっている。未利用処分は、具体的には、焼却 (0.98Mt, 10%) と埋立て (0.74Mt, 8%)である。日本のリサイクル+熱回収は、81.6%となり、ヨーロッパの標準的な国のレベルのようです。一部の廃プラスチックは輸出(約0.15Mt/年)されており、輸出先で適切に処理されているのか心配になる。

2019/10/14 追記
 EUの国と比べると、日本はプラスチックのリサイクル率が約10%低く、一人当たりのプラスチック使用量も多い 10/05 日経新聞より

 海岸漂着物地域対策推進事業の結果 参考資料1) から算出された全国の漂着ごみの2013年の推計量は310~580ktである 。この数字は、プラスチック総廃棄物(9.4Mt/年 )の凡そ3-6%程度となっている。その内、回収量は約45kt(漂着ごみの10%程度)と少ない。漂着ごみの 5年間(H.22-26)の調査で、全国7カ所に漂着したペットボトルを製造国で分別した結果では、韓国、中国から漂着物が多いとのことで、漂着ごみは国内で排出されたものだけではないことが分かる。また、環境省の海洋ごみの実態把 握調査(マイクロプラスチックの 調査、2014年)によると、 日本周辺海域(東アジア)では、 北太平洋の16倍 、世界の海の27倍と多く、嬉しくない結果となっている。

 気象庁も、独自に、海洋に浮遊しているプラスチックやタールボール、油や海水中の海洋汚染物質の航走調査を行っている 参考資料5)。航走100kmあたりの海面浮遊汚染物質(プラスチック類)の観測個数の推移が図示されている。資料5からの引用:「日本周辺海域では、1990年代までは減少傾向が続き、2000年前後は5個程度でしたが、その後は増加傾向にあります。2011年には東北地方太平洋沖地震の津波によって陸上から海洋へ流出したプラスチック類が多かったものと考えられます。一方、東経137度線においては、年によって多数の海面浮遊汚染物質が観測されることがあるものの、2000年代まではおおむね3個を下回る水準でした。その後はやや増加し、5個前後で推移しています。」

近所のコンビニや自販機からゴミ箱が撤去されている。どうしてだろう?

海洋のプラスチックごみ

 陸地に捨てられたプラスチック(ポイ捨て)が、風や雨に運ばれ、川を経由して、最終的には海洋へ流れつく。2010年のデータによれば、世界のプラスチックの生産量:270Mtでプラスチックごみ量:275Mtと推定されている。この推計の特徴は、沿岸部のプラスチックごみの一部が海洋へ流出するとして見積もられている  参考資料2.)。海岸線から50km以内の海辺に20億人が居住している。これらの人が、100Mtのプラスチックごみを出し、一部が不適切な処理(32Mt)をされ、その結果、8Mtが海洋へ流れ出すと推計している。海洋上の海面に浮かぶプラスチックごみ量は6-245ktと推計している。

 海洋へ流出しているプラスチックごみがどの国から来ているのかの推計もある 参考資料3)。トップ20ヶ国と流出量のリストが示されている。多い順から、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ、タイ、エジプト、マレーシア、ナイジェリア、バングラデッシュ、南アフリカ、インド、アルジェリア、トルコ、パキスタン、ブラジル、ビルマ、モロッコ、北朝鮮、米国となっている。半数がアジアの国であり、日本の周辺の国も多く、したがって、日本の海岸に外国のプラスチックごみが流れて来ているのも理解される。

 海洋生物への影響が心配される海面上のマイクロプラスチック(5mm以下のプラスチックごみ)についても推計 参考資料4)されている。海洋上のマイクロプラスチックの実地調査と海流、気象現象などを考慮したシミュレーションで海洋上のマイクロプラスチックの濃度分布を計算している。その結果、2014年におけるマイクロプラスチック粒子の累積数は15から51兆個で、重量に換算すると93から236ktであり、2010年の海洋に流出した世界のプラスチックごみの約1%に相当するとのこと。海岸線近くに限ると、マイクロプラスチックは、日本の周辺と地中海に多く、他の地域より1桁以上多いことに気付く。海流の影響で海洋上でごみが集積する場所(北緯30°、経度130°付近の太平洋上と経度40°付近の大西洋上)もあるようだ。

 日本周辺の沖合海域でのプラスチックの分布図のデータもあります 参考資料 9)。 日本周辺では、全体的にマイクロプラスチックが分布し ており、北海道を除き(データなし)10-100個/m3とかなり高い密度となっている

プラスチック・マイクロビーズの規制

 従来、歯磨きや化粧品などに角質除去や洗浄の目的でスクラブ剤(こすって汚れを落とす)として球状のプラスチック・マイクロビーズ(大きさ数十~数百μmのボール状のプラスチック)が使われていた。プラスチック材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどが使われていた。特に、ポリエチレンは、 比重が1以下と水より軽く、海水にも浮く。プラスチック・マイクロビーズは、洗面所などの排水管を通って河川や海に容易に流れ出すため、環境への影響が懸念された。一度海へ流出したプラスチック・マイクロビーズは粒子が小さいがため、回収はほぼ不可能です

 眼球に入り込んだ、あるいは、歯肉に入り込んだプラスチック・マイクロビーズの衝撃的な写真もあります 参考資料7)。更に、東京湾で捕れたカタクチイワシの内臓からプラスチック・マイクロビーズが検出さ、人の健康にも影響が心配されている 参考資料8)。日本でも、2018年6月22日に法律(平成30年法律第64号)が公布・施行 参考資料6)され、プラスチック・マイクロビーズなどは、規制の対象となった。現在では、多くの化粧品、デンタルケア製品は、天然由来の成分(セルロース、コーンスターチ)のスクラブ剤に切り替わっているとのことです。

注意:法律では、マイクロプラスチック(微細なプラスチック類をいう)として規制:「事業者は、マイクロプラスチックの海域への流出が抑制されるよう、通常の用法に従った使用の後に河川 その他の公共の水域又は海域に排出される製品へのマイクロプラスチックの使用の抑制に努めるととも に、廃プラスチック類の排出が抑制されるよう努めなければならない」旨を規定。

プラスチックごみの問題点

 海洋に流出した大きなプラスチックごみは、太陽からの紫外線や波・風の力で、5mm以下の大きさのマイクロプラスチック、経過時間とともに更に微細化して、ミクロンサイズのプラスチック・マイクロビーズになります。海洋上でミクロンサイズになったプラスチック・ビーズは、小さ過ぎて、回収が不可能となります。小さなプラスチック程、人に及ぼす影響が大きい可能性があります。

 プラスチック・マイクロビーズは動物性プランクトンに餌と間違われて捕食され、蓄積される。プラスチックは分解や消化されなく、更に大きな動物に捕食され、蓄積して行きます。こうして、大型の動物へマイクロプラスチックはより多く蓄積されて行きます。東京湾で採取された64匹のカタクチイワシの消化管内を調査したところ、64匹の魚のうち49匹(77%)でマイクロプラスチックが検出され、平均2.3個、最大15個でしたとの論文が出ている 参考資料8)。

 マイクロプラスチックが何故問題か? 次の様な事がが懸念されている 参考文7)。 プラスチックの添加剤(PBDEs難燃剤)が溶け出し、生物への移行するおよび海水中の有機汚染物質などがマイクロ プラスチックの表面に吸着して濃縮して生物に取り込まれる。さらに、食物連鎖を通じて、最終的には人が汚染された魚介類を食べた時に生じる影響です。調査では、PCBsなどの有機汚染物質が海水中の濃度の 数千倍~百万倍になってプラスチック表面に濃縮しているとのことである。 魚介類への影響や人間に対する影響が懸念されるが、現時点では、詳しいことは分かっていません。

どうすれば良いの??

 陸上でのプラスチック廃棄物の管理を徹底して、川を経由して海に流れださないようにするのが何より重要である。そのためには、ポイ捨てはやらないで、汚れたプラスチックは水洗いし、分別してリサイクルのルートに乗せる。洋上に流出してしまったプラスチックごみは、時間経過とともに小さくなり、マイクロプラスチックやプラスチック・ビーズなどに変化するので大きなプラスチックごみの段階で収集・除去する。ただし、個人レベルでは限界のあるので、海洋上のプラスチックごみの収集・除去を支援するしかないでしょう。

 石油由来のプラスチックの使用量を減らす。色んなメーカーのペットボトル入り飲料をを比べると、減量化や薄肉化が進展したのが見れます 参考資料9)。具体的には、軽く、柔らかいミネラルウオーター容器が増えている。最近では、紙ストローなど、プラスチック代替材料も体験できます。どうしてもプラスチックが必要な部分は、未だコストが高いが生分解性プラスチックを使うのが好ましい。

 バイオマスプラスチックは、再生可能な有機材料を原料にして作られるプ ラスチックで、地球温暖化の防止には役立つが、マイクロプラスチック問題の解決策にはならない可能性がある。生分解性プラスチックは土壌中の微生物の働きにより分解し、最終的には水と 二酸化炭素に分解されるもので、バイオマスプラスチックよりはよさそうである。

 レジ袋を貰わないで買った食料などマイバッグで持ち帰る。カップ、スプーン、ホークなど使い捨てプラスチック製品を出来るだけ避け、繰り返し使える材料の製品を使う。などなど、いろんな日常の努力はは可能であるが、飲料はペットボトルで提供されている、ほとんどの食品の包装はプラスチックで出来ている現状を考えるとどれだけ効果があるか心配になる。

 普通の人が出来るのは、出来るだけプラスチックを使わないようにするのと、プラスチック廃棄物は、洗浄後、分別してサイクルのルートに乗せることでしょうか? また、より、プラスチックごみが減るように、エコな製品を選択するのも良い方法だと思います。

参考資料1)
http://www.env.go.jp/water/marine_litter/00_MOE.pdf

参考資料2)https://www.un.org/depts/los/consultative_process/ICP17_Presentations/Jambeck.pdf

参考資料3) Jenna R. Jambeck
https://www.iswa.org/fileadmin/user_upload/Calendar_2011_03_AMERICANA/Science-2015-Jambeck-768-71__2_.pdf

参考資料4)
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/10/12/124006;jsessionid=123F0E078E457FC6106D3ACEE956F209.c3.iopscience.cld.iop.org
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/10/12/124006/pdf

参考資料5)
http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/index_pollution.html

参考資料6)
http://www.env.go.jp/water/marine_litter/law.html
http://www.env.go.jp/water/marirne_litter/02_2youkou.pdf

参考資料7)
http://www.env.go.jp/water/marine_litter/08_HaruyukiKANEHIRO.pdf

参考資料8)
https://www.nature.com/articles/srep34351?WT.feed_name=subjects_ocean-sciences

参考資料 9)
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-02/y031202-s1r.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF+%E4%BD%BF%E7%94%A8%E9%87%8F%27

参考資料10)米国の統計データ
https://www.epa.gov/facts-and-figures-about-materials-waste-and-recycling/plastics-material-specific-data

参考資料11) 日本プラスチック工業連盟
http://www.jpif.gr.jp/2hello/conts/toukei_c.htm