まとめ
◇日本の対新型コロナウイルス戦略は、人の移動制限は緩やかに維持したまま、同時・多数の人へ感染させるクラスター潰しが中心である
◇海外の対新型コロナウイルス戦略は、徹底した感染者の発見・隔離および人の移動と接触を停止させるロックダウンの併用である
◇日本でも、海外で行われているPCR検査能力を増強して感染者を徹底的に隔離する方法をもっと強化すべきと考える
◇新型コロナウイルスとの戦いは少なくとも2年の長期戦となる。そのためには、日本も海外諸国も現在の戦略から、移動制限を最小限にして経済活動を維持する戦略への転換が求められる

 日本は、諸外国と比べて、ユニークな新型コロナウイルス(COVID-19)との戦い方をしていると思います。この時点で情報を一度整理してみたくてこの記事を書きました。私は、新型コロナウイルスの情報が逐次知らされることに関しては強い不満を持ち続けている。公衆衛生の専門家などは、未解明な部分があるにしろ、新型コロナウイルスの戦い方の戦略の全体像を早期に開示すべきと考えている。

2020/05/22アップデート
2020/05/26アップデート

新型コロナウイルス

 1人の新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が周囲の人にうつす(感染させる)人数は、1.6~4.2 文献1)と幅があるようだ。これは、人口密度や日常の生活様式/ライフスタイル(挨拶の仕方、密接人数、娯楽など密接の機会と環境)で変化する。例えば、1人の感染者が、平均的に、周囲の2名にウイルスをうつす(感染させる)とすると、1人が2人、2人が4人、4人が8人、8人が16人とステップが進む毎に倍倍と新たな感染者が急増する(図1)。私の「新型コロナウイルスの感染シミュレーション」記事もご参照下さい。

図1 感染者1から2人にうつす場合の感染拡大

 最近の報道情報では、クラスター感染(同時に多数の人が感染)の発生が問題とされている。感染ルートを追跡すると、屋形船、ライブハウス、バーなどでクラスター感染が起きているとのこと。これらの場所は、多くの人が集まり(密集)、密接してかつ換気が悪い状態(密閉)にあるとされている。1人の感染者が周囲の人にうつす人数は、あくまで平均人数であるので、感染者を追跡すると、誰にもうつしていない人、1にのみうつした人、多数の人にうつした人(図2)がいるものと推定できる。

図2 感染者が感染させた人数(赤:感染者、黄:うつた人)

集団免疫戦略

 この戦略では、ワクチンなど、予防する手段がない新しい感染症の場合は、多くの人がウイルスに感染して免疫をつける(集団免疫)しか方法がないと考える。通常のインフルエンザの様に特別な対策は採らずに野放しとする。感染から回復して免疫を持つ人の割合が60%†を超えてくると、感染のピークが過ぎ、感染者数が経時的に減少して来る。しかし、新型コロナウイルスによる死亡率が通常のインフルエンザの約10倍の約1%と高いので多くの国がこの戦略を採用していない理由です。

†:一人の感染者が免疫のない人にうつす平均の人数を2.5人とすると、免疫を持つ人の割合が60%に達した時点では、うつされる人は2.5x免疫のない人の割合=2.5x(1-0.6)=1.0人と低下します。したがって、この時点を過ぎると感染者の人数は減少してきます。うつされる平均人数:2.5人は感染初期の人数で新型コロナウイルスで一般に採用されている数値です。2020/04/17追加

 当初、英国が集団免疫モデルを考えていたが、死者が最大25万人になるという予測結果が出た時点で中止された。現時点では、スウェーデン 文献2)がこのモデルを採用しているとのこと。
注意:スウェーデンでは、大規模集会の禁止、高齢者隔離および部分的な国境封鎖の措置は行っているとの情報あり。

感染速度の抑制方法

 新型コロナウイルス用のワクチンは未だ開発出来ていないので、ワクチン接種で免疫を付ける手段は採れない。現時点(2020年4月15日)で感染を抑える手段は、①感染者を速やかに発見し隔離するのと②都市をロックダウンなどで人の移動と接触を制限するしかありません

①患者の隔離
 検査の精度が高く、簡単かつ安価にできるのであれば、全国民を対象に検査してウイルス感染者集団とそうでないものを隔離すれば封じ込めは原理的には出来る(図3)。新型コロナウイルスの検査では、現状、鼻や喉の粘膜を採取して新型コロナウイルスのDNAを検出する核酸増幅法であるPCR(Polymerase Chain Reaction)検査が採用されている。この検査は手間、時間およびコストも高い。したがって、日本では感染した疑いのある人だけ(37.5℃以上の発熱が4日以上継続している人など)を対象としている。

図3 感染者の隔離イメージ(赤:症状が出た感染者→PCRで陽性→隔離、青:無症状感染者、黄:うつされる人、□:隔離)

 新型コロナウイルスでは、ウイルス感染者でも無症状の人も多いとのこと。無症状の感染者はPCR検査を受ける機会がないので、感染者の完全な封じ込めは不可能と言える。

②都市のロックダウン
 最終的な感染症の抑制方法は都市の封鎖/ロックダウンである。これは、極端に言えば、個人を家に閉じ込めて隔離する方法(図4)なので、症状が出た感染者に加えて、無症状感染者と感染していない人も一様に隔離してしてしまう方法なので強力なウイルス封じ込め手段です。ただし、この方法の問題は経済活動を著しく制限(ほぼ停止)することです。

図4 ロックダウン(赤:症状が出た感染者、青:無症状感染者、□:罫線は隔離)

各国の戦略

 どの国も医療体制が崩壊しない様に感染スピードを抑えたいと考えている。医療体制が崩壊すると新型コロナウイルスによる死亡率が1桁近く跳ね上がるからであり、先進国では許されない問題となる。イタリアやスペイン他の例を見れば自明である。

 多くの国では、PCR検査能力を拡大し、感染の疑わしい人を片っ端からPCR検査して、陽性なら隔離する方法をとっている。サンプルである鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液(粘膜)の採取時の感染を防止する目的でドライブスルー方式を採用している国もある。

 欧米など各国では感染者の隔離と都市封鎖/ロックダウンを同時に行っている(図5)。受診や食料品を買い出し以外の外出の禁止、違反者には罰金、逮捕などの強行処置をとっている。これらの国では、感染ルートの追跡を行って来なかったあるいは既に多くの感染者数が急増する段階/アウトブレーク状態にあり、強行的な手段ではあるがロックダウンによって一気に感染の収束を狙ったと考えられます。

図5 各国の対新型コロナ戦略(J:日本、S:スエーデン、A:米国、EUなど)

日本の対新型コロナウイルスの対応は、4月15日時点では、2つのステージに分けられる:
1.第1波ステージ:緊急事態宣言前(4月07日以前)
 主要な感染者は中国などからの旅行者と中国から帰国した日本人などである。一部の特定国からの入国制限(入国禁止、2週間の隔離待機)を実施している。緊急事態宣言前(4月07日より以前)は特別な規制はなかったが、「手洗い」と「咳エチケット」の励行、「3密(密接、密集、密閉)を避けよう」および東京都などから「不要不急の外出は止めよう」との呼びかけがあった。2月~3月中旬の毎日の新たな感染者数は数十人程度であった。

2.第2波ステージ:緊急事態宣言後
 感染ルートが追跡できない感染者(国内在住)が多くなったのと感染が広まる欧米などからの感染帰国者が増えて来た。ほぼ全ての海外からの入国制限が実施されている。3月末頃になると毎日の新たな感染者が100人を超えるようになって来て、主要都市ではアウトブレークが懸念されるようになって来た。4月07日に安倍首相が7都道府県に対して緊急事態宣言を発出し、従来と比べて接触の機会を80%減にするようにとの呼びかけがあった。

経過の追加
4月16日 緊急事態宣言を日本全国に拡大
5月14日 緊急事態宣言の一部解除:39県
5月21日 緊急事態宣言の一部解除:関西圏の3府県
5月25日 緊急事態宣言の全面解除:関東の都と3件、北海道
 49日におよぶ感染リスの高い業種に対する休業指示や自主・自発的な人の行動制限などにより、新規感染者の数が3月時点のレベルに戻った。今後、休業指示された業種も順次営業再開されるが、感染防止策は継続する必要がある

 日本の緊急事態宣言は強制力や罰則はなく、あくまでお願いである。緊急事態宣言に基づき、都府県知事がクラスターが起こる可能性のある催しやビジネスの中止や時間制限をお願いしている。

 日本の戦略の特長は段階的に制限を課していることである。私は、日本では一気に感染が広まらなかった幸運に恵まれ、経済活動を制限したくないとの意図があったと推察している。

 また、日本ではPCR検査により感染者を隔離して感染の伝播を力ずくで阻止する方法†は採られていない。上記で述べたように全感染者は見つけられないおよびクラスターを除けば、うつす人数は平均で1人以下になっていると言うデータがあるのだと私は確信している。取り敢えず、8割の接触制限で感染拡大を早急に抑え込み、医療体制を維持できる、毎日の感染者数が2月~3月中旬レベルの数十人規模になれば、以前のゆるい規制に戻すことを考えていると推察する。

† 5月22日追記
日本のPCR検査体制がなかなか整わない、PCR検査の判定までに時間が掛かり過ぎるなどの課題を解決するために新しい検査方法が導入された。富士レビオのSARS-CoV-2(5月13日承認済)である。これは「抗原」を検出する方法で最大30分で新型コロナウイルスの感染の有無を判定する。「PCR検査」、「抗原検査」、「抗体検査」の使い分けについては 文献3)をご参照下さい。

 日本の対新型コロナウイルスの対応では、収束までにより日数が掛かるが、死者の数は抑えられる筈である。本当の収束にはワクチンの開発が必須である

出口戦略

 新型コロナウイルスとの戦いは最短でも2年の長期戦となると推定される。新規の感染者の発生数を医療体制が崩壊しないレベルに抑える目途が立ったなら、経済活動を出来るだけ維持する戦略への転換が早急に求められる

 ウイルスに感染し回復した人の体内ではウイルスに対する抗体ができる。感染の初期にIgM抗体、1週間後以降にIgGが生成されるとされている。各社がIgG抗体を検出するキットの開発を精力的に行っている。

製品名開発・製造詳細とリンク
Elecsysロシュ・5月上旬からEU加盟国などに出荷開始
・米FDAにも承認の申請
・6月までに数千万個/月を生産体制準備
抗体検査試薬キット販売KURABO
中国提携先企業の開発
・抗体検査試薬キット(イムノクロマト法)
・検体の添加→検体希釈液の添加→15分水平に静置の3ステップ

・10テスト/キットが25,000円
クオリサーチセルスペクト・抗体量を測定する酵素免疫測定法(ELISA法)
・10種類の試薬と検体を反応させる96個の「ウエル」で構成し、1度に96人分を検査(判定時間2時間要)
・約30分に短縮する「迅速ELISA」キットも6月発売計画
GenBody販売:ヤマト科学
GenBody Inc(韓国)
・免疫グロブリンM(IgM)および免疫グロブリンG(IgG)を迅速に(10分)検出するためのイノムアッセイキット
・20カセット/箱が50,000円
抗体検査キット(追加2020年4月20日)

 ロックダウを進めて来た欧米では(暫定的な)出口戦略としてIgG抗体検査を活用しようとする動きがある。IgG抗体陽性の人は再度、新型コロナウイルスに感染するリスクがない/少ないので、行動制限を課さないことを考えている。IgG抗体陽性の人はロックダウンの制限から開放するあるいは感染リスクをともなう業務を担当してもらうなどを検討している。この場合もできるだけ多くの人の抗体検査をしようとしている。

注:IgG抗体検査の副次的な効果は、新型コロナウイルスに罹った人の本当の数が推測できることである

参考文献

文献1)
https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/contents/article/1866/

文献2)
https://www.msn.com/ja-jp/money/news/ロックダウンしないという選択をしたスウェーデン…「基本的な行動規範に忠実なだけで効果はある」/ar-BB12wy9X

文献3)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200517-00178720/